指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

騒がしい小説。

素晴らしいアメリカ野球 (新潮文庫)

素晴らしいアメリカ野球 (新潮文庫)

とにかく饒舌で騒がしい小説。実際にはアメリカン・リーグナショナル・リーグの二リーグ制のメジャー・リーグに仮構された、三つ目のリーグの盛衰記でお話はもう全然ありえそうにないんだけど次から次へと繰り出される言葉の力にぐいぐい押されるようにして読まされる。荒唐無稽なはずなんだけど細かいところで妙につじつまが合っていていやいや行き当たりばったりじゃなくきちんと構成された作品なんだなとも思わされる。今、奇しくも、押されて、読まされる、思わされると受け身が三つも続いたのでどれかを書き改めようと思ったんだけどそうしないのは、読む、とか思う、とかいう能動態の言葉では言い表すことができないほどこの読書体験は圧倒的に作品が主導しているからだ。読者は命からがら着いて行くのが精一杯といった感じになる。作品全体を始まりから終わりまで続く一本の糸にたとえるとものすごい力で引っ張られているためにばらばらにちぎれてしまう寸前まで引き絞られているような印象だ。いやもしかしたらすでにあちこちでばらばらになっているのかも知れない。読者はその破片から破片へ渡り歩きながらこれは元々はどうつながっていたんだろうと考え考え読み進めているのかも知れない。柴田元幸さんが高橋源一郎さんの作品との近似性を指摘していらっしゃるが、確かに読みながら何度も高橋さんの作品を思い出したことを付記しておく。