指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

明るい「変身」。

変身,掟の前で 他2編 (光文社古典新訳文庫 Aカ 1-1)

変身,掟の前で 他2編 (光文社古典新訳文庫 Aカ 1-1)

グレゴール・ザムザと記憶していたらグレーゴル・ザムザと表記されていた。まあそんなことはいいんだけど光文社古典新訳文庫が売れているらしい。売れているという言葉が具体的にどの程度の数値を指しているのかはわからない。でもたとえばこの企画があったせいで「カラマーゾフの兄弟」の読者は確実に増えた、少なくともそういう功績はあったと思われる。
同文庫のカフカの短編集を読んでみた。何かすごく明るく正しい話みたいに思われてびっくりした。まるで国語の教科書を読んでいるみたいだ。もちろんカフカの「変身」が明るい話であるはずはないんだけど、以前読んだときはもっともっと暗さが身にしみた憶えがある。新潮文庫版だったと思う。それしか持ってないから。
それで装幀とか行間の具合とか紙の質とかそういうのが読書にとって案外大事なのかも知れないなと思った。編集方針の異なる三つのカフカ全集のどれを底本にするかとかそういう専門家レベルのどうこうを言うよりも、造本の上で近代的均質空間的清潔さ、明るさを強調した方が今の読者には受け入れやすいのではないか。
別件だが「史的批判版カフカ全集」がそれほど大したものなら、全部翻訳して出せばいいじゃん。