指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

ドッグイヤーできない。


カーヴァーの評伝を読み終えた。気になる記述がある場合買った本ならページを折り曲げるけど図書館で借りた本なのでそれができない。苦肉の策で罫線入り付箋にページを控える。

P204
(前略)けれども、親が酒を何よりも大事にしているのを見た子供には、そこには何か自分には経験できないものがあるのではないかと思ってしまうのだろう。なぜ結婚生活よりも、家族よりも、仕事や健康や頭脳よりも酒が大事なのか、それを説明できる何かが。(後略)

P270
(前略)無知だったおかげで、挫折することがなかったのだ。
(後略)

P415
(前略)セシリーはふたりの会話に注意を払っていなかったが、彼女の目の前でレイが逆上し、ワインのボトルをつかんで、それでメアリアンの側頭部を殴った。(中略)彼女の白いドレスは血で真っ赤に染まっていた。(中略)キンダーは翌日、彼女とレイが短い時間一緒にいるところを見た。「メアリアンは彼のところへ行って、その頭の後ろに両手を載せた。そして優しくとんとんと叩いた。たいしたことは何も言わなかった」とキンダーは回想した。メアリアンは夫に対して告訴の手続きを取るように勧められたがことわり、(後略)

P429
(前略)
「人生を始めるとき、破産者やアルコール依存症患者や詐欺師や泥棒、あるいは嘘つきになろうと思う者はいない」と、後年になってカーヴァーは語った。だがアルコール依存症の底に沈み込む過程の中で、カーヴァーはそのすべてになっていた。
(後略)

P465
(前略)しらふになったレイは、「バッド・レイ」または「バッド・レイモンド」と彼が呼んだ現役の酒飲みの物語を語りつづけながら、彼が「グッド・レイモンド」と呼んだ新しい人物として生きる努力をした。このようにして、二つの人格を持つ人間として自分を見る傾向と、二重人格に対する強い興味が、彼の中で新しいかたちをとった。ある夜、マッキンリーヴィルで、レイが椅子に座って笑いつづけていたときのことをメアリアンは鮮明に覚えている。

 それが二十分ほどもつづいて、私は聞きました。「教えてよ、レイ、何がそんなにおかしいの?」って。でも、私に話そうとするたびに、彼は笑ってしまって、話ができないのです。
 しばらくして、ようやく彼はこう言いました。「しかし、あの酒の飲み方は、やりすぎだったよなぁ」。それを何度も何度も言うんです。「あの酒の飲み方はやりすぎだったよなぁ」って。
(後略)

P466
(前略)だが禁酒初期の蜜月期間が終わると、二人(引用者注、レイとメアリアンのカーヴァー夫妻)は平凡な日々の退屈さに脅え、かつての二人の激しい関係が消えてしまったことをさびしく思うようになった。(後略)

P668
(前略)
 メアリアンによれば、彼女とレイは一九五五年から毎年クリスマスプレゼントを交換しており、それは離婚後もつづいていた。(後略)

P672
(前略)「何かが複雑に思えるときや、こみいっているように感じられるときには、よく考えて注意深く書き出してごらん。必要なら何度かそれを繰り返すことだ。やがてそれは滑らかに流れるようになり、自分が伝えたいことだけを正確に表現できるようになる」。(後略)

P696
(前略)レイとメアリアンの両方を知っていたキトリッジは、レイがメアリアンに対して罪悪感と悲しみを感じていると知っていた。彼は「派手な成功を収めて立ち去り」、彼女は「どしゃ降りの中に取り残された」からだ。そしてカーヴァーは、彼と生活をともにしたことによって彼女は狂気に追いやられてしまったのではないかと思うことがときどきあると『不埒な鰻』に書いている。(後略)

P706
(前略)
 テスはレイに、いずれメアリアンと会うときのことを思うと、「彼女がどんな態度をとるか、私自身がどんな態度をとるか」を想像して不安になるのだと打ち明けた。レイはこれを聞いて、十四歳のメアリアンに会ったとき、彼女はまるで天使のようだった、と話した。そしてテスに、「この人は天使のような人だった、そう思って彼女に接してくれないか」と頼んだ。
(後略)