指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

古城を買う。

予定通り神保町の天丼いもやで天丼を食べた後三省堂で小学校の教科書の下巻を買う。それからちょっと用があって池袋のISPにある3COINSに行くとハロウィーンの雑貨でかわいいのがたくさんあったのでそれでも我慢して五つだけ買った。塾の飾りつけ用。ほんとはもっと買いたかった。なんかここのところ雑貨好きが昂じていて自分でもどうしたものやらと思っているんだけどよく考えてみるとずっと若い頃にその芽があった。
学生の頃荻窪にあった喫茶店に入り浸り挙げ句の果てにバイトに雇ってもらったりしたことは前にも書いた通りなんだけどその店のオーナーはヨーロッパの古物を扱う仕事もしていた。今から思うとおうちがかなり裕福だったんじゃないかという気がする。三十代後半で服装といい店の調度品といい何しろ趣味が良かった。小物や雑貨にこだわる趣味はここで身につけたと言ってもいいし元々そういうものが好きだったのがその店で本格化したと言ってもいい。
オーナーから不思議な話を聞いたのを覚えている。ドイツだったかオーストリアだったかにあった小さな古城を日本人三人共同で買ったという話だ。どうしてそんなものを買おうと思ったのかは忘れてしまった。ただ買った途端に三人にいろいろいやなことが起こり始めこれはまずいと手放したが時すでに遅く間もなく三人のうちのひとりが急死した。オーナー自身もかなりのダメージを受けて古物商の仕事を一旦やめざるを得なくなりほとぼりが冷めるまで喫茶店の仕事をしているということだった。つくり話とは到底思えない生々しさがあった。
オーナーが店を閉め(フェアウェルパーティーで僕は泣きわめいてトイレで酔いつぶれた。)てからも年賀状のやりとりくらいは続けていたがもう十年ほど前その年の年賀状が宛先不明、転居先不明で返送されて来た。オーナーが新たに開いた吉祥寺のアンティークショップ(二十年近く前に一度だけ訪ねたことがある。)の住所にも手紙を書いて送ったりしたけどそれも返送されて終わった。最後にいただいた年賀状には退院後の養生をしているとあった。それを読んだときどうしてすぐに連絡をとらなかったのかがしきりに悔やまれる。