指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

アンソロジーの愉しみ。

恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES 村上春樹 編訳 「恋しくて ― TEN SELECTED LOVE STORIES」
タイトルはちょっとどうなのって感じだったけど読み終えてみるとこうとしかつけられないのかも知れないと思った。こういうアンソロジーを読む愉しみというのはおまかせのコース料理みたいなもので、この訳者が気に入った素材をこの訳者の腕で料理してもらってそれを贅沢に食い散らかすみたいな感覚にあるんじゃないかと個人的には思う。オートマティックに着いて行きさえすればとてもおいしい料理を気楽に味わうことができる。また一編一編に添えられた村上さんのコメントも肩の凝らない程度に収められていて興を添えている。まあ難しいことは抜きにしてとにかくお楽しみ下さい、といった感じ。個人的にはローレン・グロフという未知の作家の「L・デバードとアリエット―愛の物語」という一編がとても沁みて後半を読みながら泣けて泣けて仕方なかった。
今は村上さんの短編「恋するザムザ」に何度も唐突に登場する「あれ」の意味を考えている。