指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

来ない。

 最近入った中二の男子生徒さんは小六のときに半年ほど不登校だったということで見かけはおらついた感じなんだけど実は優しい性格で逆に言うとなんかこう弱々しいところがあり塾も休みがちで最近はもう一ヶ月以上顔を見せてない。成績は下の中くらいで5教科はほとんどが五段階評価で2だとお母さんは言う。だから早急にてこ入れが必要なんだけど授業に来ないのではどうしようもない。困ったのは全然来ないのにも関わらず毎月きちんと月謝が振り込まれることで特別に普通の生徒さんより週に一日多く通ってもらう約束なので月謝も通常より高めにいただいている。なのに来ない。普段はメールでやりとりしてて本人が来なくなってからはお母さんからも何の連絡もなくて塾を続けるのやら辞めるのやらわからない。ただ月謝が振り込まれてるところを見ると辞める気はないんだろう。こちらから辞めたらどうかと切り出すのもなんか違うような気がしてどうしていいかわからないまま静観してる。いつか返すことになるかも知れないと思って払い込まれた月謝にはここ二ヶ月分ばかり手をつけずにとってある。
 そろそろ夏期講習も終わろうとしている。今週水曜日に女子の中学生がひとり午前中の講習に来なかったので昨日通常の授業にやって来たときに昨日はどうしたんですかと尋ねると来られなくなったと親に連絡してもらったはずですと言う。そういう記憶はなかったけどそうですか、それじゃあこちらの思い違いですねと答え今日も夏期講習が予定されていたので明日はいらっしゃいますかと尋ねると来られませんと答える。それでその子の分の教材は用意してなかったら今日時間になったらまんまとやって来て、あわててあれいらっしゃれるようになったんですかと尋ねると午前中はお休みでその分午後から来ましたと言う。でも今日の午前中は夏期講習はお休みで講習の申込用紙にも日程のことははっきり書いてあったはずなのでちょっと何を言ってるのかよくわからない。でも彼女のためではなく一般的に生徒さんたちの手が空いてしまったときのためにつくっておいた教材をとりあえずやってもらうことにした。夏休みの宿題が終わらないので自習に来たいという中学生がひとりいてほんとに自習で済めばいいんだけどいろいろ質問されるのでその対応と予定通りに夏期講習にやって来た生徒さんの対応と通常の授業を受けにやって来た小学生の生徒さんの対応があって割にてんてこ舞いが予想されてたところへその突然の女子生徒さんの対応が加わって一時はかなりきつい展開となった。二学年の同時進行ならなんとかなる。でも三学年の同時進行となるとこれはもうほとんど不可能で四学年揃ってしまうと授業はあっけなく破綻する。だからなるべく多学年がかぶらないように配慮してるんだけどそれでもこういうことが起きる。しかもおそらく自分には落ち度はないと思われるだけにやはり腹が立つ。でもその持って行き場もない。
 宿題の終わらない中学生は社会科の宿題でスーダンアフガニスタンについてレポートしなければならないんだけどマイナスなイメージのことは書いちゃいけないしばりがあると言う。でも今アフガニスタンについて何か書いてマイナスのイメージに触れないというのはとてもじゃないけどできることじゃない。タリバンに女性と子供に米軍撤退に起きたばかりの自爆テロをスルーしてこの国のことを書くなんて不可能だ。それでスーダンについて書くことにしたらしいんだけどスマホで調べるとこちらもかなりひどい。内戦にクーデターに紛争の歴史だ。経済も破綻してるとある。なので歴史は措いとくことにして肥沃なナイル川と農業のこととイスラム教信者が多いことでごまかすことにした。絵も描いて持ってくと言うのでスマホで画像を探してやりピラミッドのような建造物とナイル川流域のものをそれぞれ一枚ずつ描かせた。塾の色鉛筆も貸して色もつけさせるとなかなか立派な絵に仕上がる。しかしなんでよりにもよってスーダンアフガニスタンの二択になったかねえ。学校の方針が理解できないよマジで。