指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

責任者のいないPC。

会社のPCがトラブった。HDDがテンポの速い鹿威しみたいな感じでかっこん、かっこんという音を立て始め、動作も極度に遅い。これはHDDが壊れる前兆ではないかということで急遽必要なところだけバックアップし、とりあえず別のPCを代用することになった。壊れそうになっているのもその代用品も「責任者のいないPC」だった。

たとえ会社のPCであれ、自分専用に与えられたPCならそれなりの愛着も湧き、わかる範囲でメンテナンスもして大事に使うだろう。トラブったときも、少なくとも責任者としてトラブるまでの状況くらいは説明できると思う。それだけでも問題解決のためには飛躍的な一歩になりうる。一番タチが悪いのが「責任者のいないPC」、要するに不特定の人が不特定の目的で使っているPCだ。

アプリケーションは入れ放題。設定は変え放題。ドライバも組み込み放題。デスクトップの優に半分はショートカットアイコンで埋まっている。「新しいフォルダ」「新しいフォルダ(2)」はまだいいとしてマイクロソフトExcelのショートカットだけで四つくらいあり、しかもそれらはそれぞれ別々のファイルのためのショートカットかと言うとそうではなく、四つとも.exeファイルを呼び出す。受信したメールの九割までは未読の強調表示。「お気に入り」に至っては恐くて開けない。プリンターなんか十種類くらいインストールしてあるけど、それはここ十年くらいの間に弊社で使ったことのあるプリンターすべてを網羅している。

こういうのは個人的にフォーマットしたくてたまらない。こんなPCに重要なデータが入っているわけがないし、重要なデータを入れておくならもう少し大切に使ってほしいし、こういう使い方をしている以上、フォーマットして誰か大切にしてくれるユーザーの専用とされても仕方ないと思う。当たり前だけど「責任者のいないPC」ほどトラブルの率は高い。だから、できれば全PCが特定の責任者によって管理されていてほしいと思う。知識は関係なく、大事なのは大切にしようという心がけだ。

ふたりしかいない社内トラブルシューターのひとりが僕です。できればそんなポジションにはなりたくなかった。でもまあいろいろあって抜け出せない。いっそ何か起こるたびにフォーマットをちらつかせようかと思ったけどやめた。フォーマットから復旧までに一番大切なのはある種の「愛」だと思う。PC自体かあるいはそのユーザーかに対する愛だ。会社のPCにも会社のPCユーザーにもそれほどの愛を抱くいわれはない。