- 作者: 乙一
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2000/05/01
- メディア: 文庫
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でも乙一さんは男性らしい。ついでに言うと表題作で「第六回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞」を受賞したのは17歳のときだったということだ。個人的にはこういう前知識を、特にその人の作品を初めて読む上では妨げになると見なしている。できればそれらを知らずにただ作品だけを読みたい。でも知ってしまった。そしてそれを頭から追い払うことは読んでいる間もできなかったし今もできず多かれ少なかれこれから書く感想にも影響を与えることになると思う。
ストーリーは淡々と進み展開に緊張感が漲るときには文章もきちんと緊張するし、弛緩するところではきちんと弛緩する。そんなめりはりも効いている。伏線の張り方もうまい。ラストのオチも、なるほどそういうことだったの、という説得力がある。そういう意味ではよくできたお話で読んでいておもしろい。ただ難を言えば以下のようになる。ひとつは子供たちの心の動かし方がやや不自然に思えるときがあること。もうひとつはネタバレなのでヒントだけなんだけどあの人(「弥生」ではない。)の動機が不明なこと。さらに、緊張と弛緩のサイクルが何度も繰り返されるため三度目くらいからは、結局緊張したところで旧に復するだけだろ、と思え興味を殺いでしまうこと。でもそれらの難を言うのがあまり気持ちよくないのは、言ったとたん17歳なんだからという声がどこかから聞こえてきてしまうせいだ。
「優子」の方が個人的には好きだった。作者の年齢がもう少し上で性を描けていたら、このお話はもっとずっと幽幻で陰影の濃いものになっていたと思う。その方がいいかどうかはさておき。
最後に余談になるけど僕にはホラー小説という言葉の意味が今ひとつよくわからない。表題作「夏と花火と私の死体」はホラーなのだろうか。ミステリーとは言えないまでもサスペンスと言った方が少しだけ適切な気がする。この作品を映画化したとしてもホラー映画にするためにはかなりの手を加えなければならないように思われる。