指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

不吉な予感。

 

巨大なラジオ / 泳ぐ人

巨大なラジオ / 泳ぐ人

 

  ちょっと前のことになるけど村上春樹さんの訳されたチーヴァーのこの短編集を読み終えた。収録されている短編十八編とエッセイ二編のうち表題作の二編に最も惹かれた。リアリズムに見えるのにいつの間にかそうではない不可思議な世界へ踏み込んで行ってしまうこの手の作品が個人的にもともと大好物なのだ。ただそういうスーパーナチュラルな感触でこの作家を特徴付けてしまうのは間違いな気がする。ふたつの表題作はたまたまそういう作品だったというだけのことだと考えた方がいい。それよりもどの作品にも共通しているのはある種の不吉な予感とでも言うべきものになる。主人公たちは多かれ少なかれ現状からより暗い方向へと転がり落ちて行く。落差がそれほど大きく見えない場合でも、決定的に、運命的に、不可逆的に。訳者はそうしたストーリーを展開する作者の腕の確かさを最も高く評価しているようだ。もうひとつ個人的な興味に引き寄せて言うと妻が夫を拒む描写に非常にリアルなものを感じて共感と恐怖を同時に抱いた。それはけんかしたときに家人が僕を否定する否定のしかたに酷似している。その拒み方には何かとても普遍的なものが感じられる。ひとたびそうなってしまうと男の側にできることなど何も無いように思われる。