指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

「滝野川のひと」もの三編。

廃疾かかえて (新潮文庫) 西村賢太著 「廃疾かかえて」
個人的に「滝野川のひと」と呼んでいたキャラクターが秋恵という名前で登場している。
西村さんの作品を読むとあまりに身につまされて家人に対して謂われのない罪悪感を覚えたりして、しかもそれは結構深刻なものなので読もうかどうしようか迷ったんだけど、結果から言えば読んでよかった。ひとつにはその作品世界にこちらが随分慣れて来たということがある。でもそれ以上に西村さんの書き方にも変化が見られるせいのような気もする。文体から言えば軽くユーモラスになった。また特に表題作などどこまでも露悪的に書かずに省略すべきところが省略されるようになった。また一作一作で描かれる時間の幅が比較的短くなったため、ひどい暴力を描かなくても作品の核が設定しやすくなったということもあるように思われる。秋恵との生活が今までより小さな単位で取り上げられているため、暴力抜きでも物語の高低差をつけやすくなったということだ。でもそれとは別に秋恵の魅力が薄くなったようにも思われる。暴力や悲惨な仕打ちの近くに立って、より魅力的な光を放つ秋恵が見たいんだか、秋恵の魅力が薄れても本作のような比較的穏やかな作品が読みたいんだか、自分でもよくわからない。