夏がもう一度やって来たことに気づいたのは七夕の夜だった。子供の願い事が書かれた笹の枝が部屋に飾られ「笹の葉さらさら」によく似たかなりオリジナルな歌詞の歌が聞こえて来た。もちろん夏は毎年やって来る。でも七夕が僕のところを訪れたのは二十数年振りのことだった。その間、TVのニュースなどでそう言われて今日は七夕だったかと気づく以外の七夕はなかった。ただ通り過ぎるだけだ。
そして七夕に続き、近くあの大いなる夏休みがやって来ることになっている。それもまた僕にとっては十五年以上なじみのなかったことだ。せいぜい一週間が限度の僕の夏休みなどは、一ヶ月半に近い子供の夏休みと比べると夏休みなんて言えない。僕にとっては夏休みもまたただ通り過ぎるだけのものだった。子供の夏休みを前にしてそのことがはっきりとわかった。
子供の視線を通して、本当の夏が見えるような気がする。夏がもう一度やって来る。