指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

この一週間。

先週の後半あたりから大きなイベントの準備に取りかかり、今週の前半までひたすら没頭した後残りを他のスタッフに任せることにして、別のやはり大きなイベントの準備にかかった。時間の余裕があれば後者も今週中に目鼻がつくはずだったが日々瑣事が飛び込んで来て対応に追われるうちに作業がずるずると遅れ、結局予定の六、七割のところで今週が終わった。来週も引き続きそれにかかずらわなければならないが、その後にいろいろと時間をかけて考え込まなければならない仕事がふたつ予定されていて気が重い。頭を使う仕事は取りかかるまではいつも気が重い。取りかかってしまえば辛いけど楽しい。不思議だ。
愚痴になるけど今の上司は営業職について、極端に言うと営業は営業だけしてればいいという考え方の持ち主だ。バックヤードの手伝いをする暇があったら少しでも多くの得意先を訪ね歩いて仕事を取って来い。何をどう売るのか戦略を立てることに時間を使え。そういうものかと思ってこの二年ちょっと、行ったことのない得意先に出向いたりその流れで頻繁に出張に出かけたりした。バックヤードの出荷作業を手伝っているときには軽く罪悪感を持つようになった。
でも、うちのように小規模少人数の会社の場合、そうしたやり方では成り立たないことははっきりしている。圧倒的な物量で向こうから仕事が殺到して来たときには納期を遅らせないように出荷を終えることが最優先事項になる。当たり前のことだ。そういうときに売り上げを取れるか取れないかわからない得意先に時間をかけて出向いたり、机の前で商材の研究をしたりすることはあまり現実的ではない。
これまでその上司の考え方と実際の仕事の進め方とのダブルスタンダードの間で綱渡りのようにバランスをとりながら仕事をして来た。でもそのバランスが少なくとも僕の中では劇的に崩れてしまった。それがこの一週間だった。僕はひたすら目を伏せて自分なりには最大限の効率で仕事を片付けて行った。上司と目が合えば何か話さなければならない。その時間が無駄に思えた。それでなくともくだらない案件を次々と人の肩に乗せて行くのだ。決して悪い人ではないのでできれば優しく接したいが、そんな余裕がもうなかった。
これからしばらくの間僕は目を伏せ続けるだろう。それは上司に自分の影の薄さを思い知らせることになるかも知れない。そうだとしても今の僕には他に取るべき道を思いつくことができない。