- 作者: 山崎ナオコーラ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2009/08/04
- メディア: 文庫
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世界になじめない主人公というのはひとつの系列がつくられていると言っていいほど、小説の世界ではおなじみだ。彼らは群れる他者たち、個性よりも協調性を尊重する他者たちを自分から疎外し、同時にそういう他者たちから疎外される。でも共同性と個性は突き詰めると必ずどこかで矛盾するという前提に立てば、群れる他者たちも決して一枚岩なのではなくそれぞれがそれぞれの色合いで共同性に対する違和を秘めていることは明らかだ。主人公たちがこのことに気づかなかったりこのことを忘れたりすればそれなりの報いを受けなければならない。大きな物語に小さな物語が突き刺さり、主人公が胸を突かれる一瞬がとてもリアルに描いてあった。またその一瞬を表面上主人公が無かったことにした分、それは十年後に再び捉え直されなければならなかった。そういうことになると思う。
お前はどうなんだと問われると相変わらず大きい方の物語を採用して世界になじめない主人公を演じているように思われる。それは傲岸で不遜な主人公だ。ただ自意識というのは年齢と共に衰退して行くので、傲岸さも不遜さもその衰退する曲線に沿って自然減している気がする。それでも自分を越えた何か、共同性を前提とした絶対的な何かに帰依するようなことはこれからも決して無いに違いない。