指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

ついにその日が来る。

わずかな退職金と区の斡旋で借りた開業資金を使い果たす日がついに来た。今月中に来月分の家賃と塾の家賃を払うと銀行の残高はほぼ0になる。アルバイトはなかなか決まらないしこのところずっとどうしたものかと考えていた。ただ、どうしたものかと考えてもどこかからお金を工面して来るしか他に方法が無いことは明らかだった。そしてその「どこか」とは現実的には両親しか考えられなかった。
父親は認知症が進んでいたがもともと金融機関に勤めていただけあってそういうところはさとくて、用立ててやるから借金を前倒しで返してしまえと何度か持ちかけて来ていた。母親からも困ったらなんでも言ってくれと言われていた。でも二人とも年金暮らしだしとにかくできるだけのことは自分でするつもりだった。当たり前の話だ。ただ事ここに及んではどうにもしようがなかった。妻子を養わない訳には行かない。それですごく気が重かったけど母親に電話してみた。窮状を訴えるととりあえず今必要な金額の倍以上を貸してくれることになった上、父親ばかりか弟までもかなりの金額を出す用意があるということだった。言葉も無い。
でもまあ何はともあれこれで塾の仕事をもう少し続けることができるようになった。昨日の運動会、家人と僕を見つけては笑顔を見せる塾の生徒たちの姿に、何があってもこの仕事を続けて行きたいと強く思った。誰かを笑顔にできる仕事は本当にすばらしい。でも本気でそう思うならとにかく早くサイドワークを見つけて自力で生活できる収入を目指さなくては。