指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

運動会。

子供が卒業した小学校の運動会だった。ちょっと体調を崩して午前中は行けなかったけど午後から見に出かけた。五年生の百メートル走に間に合った。塾では小学五年生の生徒数がいちばん多い。遠くからでは見分けるのが難しかったけどたまたま目の前の通路を競技を終えた五年生が通ることになっていたので塾の生徒さん全員に声をかけることができた。みんなうれしそうに笑いかけてくれた。その後、四年生が固まって競技のスタンバイをしているのが見えたので近づいて行くとやはり塾に来ている男の子が家人と僕に気づき、「80メートル走、一位だったよ!」と叫ぶので、おー、それはすごいね、と返した。別のところで出会った塾の六年男子も僕らに気づくと笑顔で手を振ってくれた。普段はそんなことあまり思わないんだけど、彼らのひとりひとりを自分がどんなに大切に思っているかに改めて気づいた気がした。彼らとの接点を絶対に失いたくないと思った。そのためには何があっても、どんなことをしてでも塾を続けなければならないのだ。
二年前の運動会は一ヵ月後に離職することが決まった翌日でほとんど呆然自失の状態だった。子供は五年生で応援団に入り力のこもった応援をしていた。この子をどこまで育てて行けるんだろうと思った。仕事が見つからないままなら次の運動会を迎える前に暮らして行けなくなるはずだった。天気の良い残暑の厳しい日だった。
昨年の運動会、子供は応援団長で華々しい活躍をしていた。塾の仕事を始めて丸五ヶ月。開業資金が借りられたので前の年の見通しよりは少しばかりデッドエンドを先送りできていたが、とは言えこのままならあと半年で資金が底をつくことになっていた。曇って蒸し暑い日だった気がする。
それからまた少し生徒数が増えたので結果的には半年でなく一年もったがいずれにせよ終わりを目前にしたのが今年の運動会だ。塾をやめたくないならここをなんとかして乗り切らなければならない。秋らしいとてもさわやかな一日だった。