指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

バイトの女子学生。

 昨日バイトで一緒になったのは前に僕が清掃のアルバイトをしていた大学に通う女子学生で会うのは初めてだった。僕よりも少し背が高い。女性の知り合いで僕より背が高い人というのはこれまでいなかった。塾の講師をしてるんですよね、なんでそんなこと知ってるんですかで話が始まる。ここで働く人は会ったことのない人まで含めて一人残らずこちらの素性を知ってるみたいだ。三年生で就活の真っ最中らしいが本命の最終面接が今度の月曜日で受かったらそこで活動をやめるそうだ。でも週五日の勤務に耐えられるか不安だの土日は必ず休みたいだの今も月に八日くらいしかバイトしてないだの心許ないことを言う。前職の話をして仕事にやりがいを見つけられれば学生より不自由だとしてもそれなりに暮らして行けるとかありきたりなことを言って元気づける。考えてみれば僕が社会人になったのは二年浪人した後大学も二年留年してからだったので学校的なところにいるのにいい加減飽き飽きしていた。だから社会に出るのが全然いやじゃなかったし特に不安とも思わなかった。期待でいっぱいとまでは行かないにしてもとにかくそのときいた環境を変えたかった。それくらいまで行かないとなかなか学生の自由さというのは捨てがたいのかも知れない。それはわかる気がする。専門は社会学ということで社会学というのはどういった人の本を読むんですかと尋ねると特に必読の書というのはないらしくてフィールドワークみたいなことを主にやると言う。でもこのコロナ禍でそれも思うようにならなかったらしい。二年ちょっとのコロナ禍と言っても四年しかない大学生活にとってはとても大きいんだろう。そう簡単には決めつけられないけど気の毒なのかも知れない。あとは面接の内容についてとか初任給の金額についてとか(20万くらいということだったけど三十数年前の僕たちの頃だって17万とかもらえた。日本の給料というのは本当に上がらないんだな。)なぜ塾の講師になったのかについてとか短い時間に結構いろんな話をした。ここの人たちは老いも若きも話し好きの人が本当に多い。これまで書いてきたようにバイト同士でもよく話してるし特に接客が必要な職種ではないのにお客さんともよく話し込んでいる。僕はこれまで誰とでも仲よく話ができるタイプではないと自分のことを考えていた。でもまあ話しかけられればそれなりに返す。特に相手が若い人でアドバイス的なものを求められるスタンスに置かれると割に親身になって考える。だから自分も思いの外話し好きなように最近思えている。まあ家人とはずっといろいろ話しながらここまで来たから特に不思議でもないのかも知れない。セルフイメージというのはいくつになっても定まりきらない。この女子学生とは二週間後にまた同じシフトに入る予定なのでそのとき面接の結果を聞かせてもらおうと思っている。