指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

薄暗いディスコのフロア。

 それは実際に何度も目にしたことのあるシーンに違いないんだけどおそらくはすでに実際の輪郭みたいなものは時間と共に融解し果ててぼんやりとしていながらものすごく強い磁力を持ったイメージとして頭のどこかに残っている。それはまた大音響の音楽の記憶とも結びついている。大声でなければ会話が成り立たないくらいの大音響の音楽。そこにいろいろな曲を当てはめるとうまく当てはまる曲とそうでない曲とに分かれることがわかる。当てはまるのは実際にそこで耳にしたことがある曲だ。例えばWham!の「Last Christmas」はものすごく好きな曲だしとてもダンサブルだと思うけどその薄暗いディスコのイメージには合わない。僕が初めてその曲を耳にしたのはクリスマスの買い物に出かけた吉祥寺のパルコの中の、あるショウウィンドウの前だ。ものすごくいい曲だな誰の曲なんだろうと思った記憶があるけどこの曲は1986年のリリースなのですでに行かなくなっていたディスコで聴いた訳がない。だから僕の持つイメージには当てはまらない。Madonnaの「Like a Virgin」もBananaramaの「I Heard a Rumour」も同じだ。すごくダンサブルだけど僕の持つ大切なイメージには合わない。
 イメージに当てはまる曲には共通点がある。それは前奏を聴くだけで心のどこかがわくわくしてくるという点だ。それはこれから始まるとんでもない快楽への期待を思い起こさせる。大音響の音楽のリズムに合わせて体を動かすことはものすごく気持ちのよい体験だった。それはディスコでしか味わったことのない体験だ。日常の中でそれほど大きなボリュームの音楽を聴くことなんてできないしまたそのボリュームが呼び起こす陶酔感なしには踊ることなんてできない。それは本当に特別で貴重な体験だった。
 頭の中に今もあるその薄暗いディスコのフロアに合う曲をひとつひとつ探し当てている。その秘やかなわくわくを保存してくれている曲を。Madonnaは「Holiday」、Wham!は「Bad Boys」、David Bowieは「Let's Dance」、Earth, Wind & Fireは「Fall in Love with Me」、Hall & Oatesは「Private Eyes」、Donna Summerは「On the Radio」、Syndi Lawperは「Girls Just Want to Have Fun」に決めて、Duran Duranはまだ迷っている。あとKajagoogooの「Too Shy」とThompson Twinsの「Lies」も加えた。Thompson Twinsは曲としては「Hold Me Now」の方が好きだけど個人的なディスコ感は「Lies」の方が勝っている。旅はもう少し続きそうだ。