指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

多くの場合結局はそういうことになる。

 先月触れた同じバイトのちょっと障がいのある女の子のお話の続き。うちの部署にはウィークデイのみ日に一時間ほどやって来る。そのときの彼女の相手をある程度まともにするのは今やまーさんや僕を含めたほんの数人になってしまった。まーさんは一時間分の仕事をホワイトボードに書いてやりその通りやらせる。まーさんがいなければ僕がそれほど詳しくはないけどこれとこれだけはやって欲しいということをやはりホワイトボードに書いておく。その上で彼女の希望を聞いて口頭でも確認並びに必要なら修正をする。ただ普通のバイトがする仕事をたとえば十なら十とすると四か五くらいのことしかできないので正直あまり戦力にはならず逆につきっきりで面倒を見てやらなければならないことも多いので若干の足手まとい感は拭い切れない。でもその数人だけはそれには目をつぶって(ということだろうたぶん)フォローしている。初めは同じ立ち位置だったうっちゃんは彼女にすっかりうんざりしたみたいでもう積極的に関わろうとはしない。もちろんそんなうっちゃんに同情しこそすれ責めようなんて気はさらさらない。もうひとりかなり年配の男性のバイトがいてこの人は根が親切なので彼女になんとか仕事を与えようとはする。ただ彼女の意見をまるで聞かず指示が頭ごなしでちょっと間違えると叱りつけることがあるので彼女の方で嫌がってる節がある。
 今日も彼女が割に大変な仕事を任されてやってる間バイトも社員も誰一人手伝おうとしなかった。僕は訳あってそこから動いてはいけない仕事をしてたので目の端で彼女の動きを追いながらそりゃ社員も無視してんだから他のバイトが手伝うはずないよなと思っていた。いい人ぶる訳じゃなく単なる事実なんだけど僕は彼女がその仕事をしてるのに出くわしたら毎回必ず手伝っている。障がいのある体ではその仕事は少々荷が重いんじゃないかと思うからだ。でも下っ端だし自分が手伝えない場合に他のバイトに向かって悪いけど彼女を手伝ってあげてくれませんかと言える立場じゃない。ただ無事にその仕事を彼女がやりおおせるのを見守るだけだ。それがまた前回も触れたように彼女はなんでも自分の流儀でやり通す傾向があって見てるとものすごく要領が悪い。そんなきつい思いしなくてもこうすりゃもっとずっと楽にできんじゃんと近くにいれば言ってあげられるけど体力的に彼女より勝る僕だって選ばないような体にこたえるやり方で作業している。でもまあかなり時間はかかったものの全部ひとりでやり遂げることができた。よかった。
 休憩の時間に話してると明日の土曜日はイレギュラーでバイトに入ると言う。○○さん(僕のこと)は明日来ますかと尋ねるので来るよと答えるとよかったあ、○○さん明日来てくれてよかったあとほっとしたように言う。そういうのってちょっとじんと来る。彼女にとって会社の中の本当に数少ない味方のひとりが僕なんだろう。再びいい人ぶる訳じゃないんだけど多くの場合結局はそういうことになる。