指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

リリパット・レーン。

 卒業旅行でイギリスへ行った三十数年前に当時つき合ってた女の子のためにロイヤル・ドルトン(と言うかミントン?)のティーカップアンドソーサーを買った話は随分前に書いた。彼女にはペアで渡しもうひと組自分のためにも買ってそれは今でもすごく気に入っている。それも結構高価だったんだけどそれと同じかもっと高価だったそのときのおみやげに母親に買ったリリパット・レーンという焼き物でできたたぶんイギリスのブランドのミニチュアハウスがあった。今でも実家に飾ってある。僕は若い頃からミニチュアの家というのがどういう訳か大好きでもしもお金がたくさん手に入ったらドールハウスを始めたいと割と本気で思ってるほどだ。今も塾には五軒のミニチュアハウスが飾ってある。いちばん古いのは今はなきプランタン銀座のそういう商品を扱う小さなフェアで見つけたもので一階が書店になってる四階建てのアパートみたいな建物のミニチュア。フランス製だったと思う。これも焼き物に見えるけどテラコッタとかそんな粘土系の素材かも知れない。それほど精巧な出来ではないけどシックな色に塗られていて持つとずしりと重い。買ってからもう二十五年くらい経ってると思う。いろんなお店をミニチュアにしたものがあったんだけど自分らしいということで書店のを選んだ気がする。次に古いのはフランクフルトに出張で行ったときに当地の割に有名な教会の近くにある韓国人の夫婦がやってるお店で買ったこれは焼き物のやはりアパートみたいなミニチュア。白と煉瓦色で塗られていて素焼きみたいにすごく素朴な印象がある。中は空洞になっており灯りを入れると窓から光が漏れるように作られている。んだと思う。やったことないけど暗いところで光らせたら相当きれいなんじゃないだろうか。十年ちょっと前の話だ。このお店には二年連続で行くことができたので一年目は母親へのおみやげとして二年目は自分へのおみやげとして一軒ずつ買ったんだと思う。もしかしたら家人の母親にも一軒買ったかも知れない。こちらの趣味の押しつけとは思わせないくらいには素敵な外観だと思う。あと三つは割に最近買ったもの。ひとつは渋谷のマーク・シティーにあるブルー・ブルーエで見つけたスチロール製の組み立て式のコテージでこれもドイツ製。ただはめ込み式なので少しずつパーツがどこかに行ってしまうのと素材のせいか退色してしまうのはいかんともしがたくて今は見る影もない。ただ買ったときは本当に素敵な佇まいだった。もうひとつは大塚のアトレヴィにあるキュイジーヌ・ハビッツ(と読むんだと思う。)というお店で買ったクリスマス用のオーナメント。白木のコテージでイメージで言うとレーザーか何かでカットしたんじゃないかと思えるような鋭いエッジを持っている。窓なんかもすごくシャープに切り取られている。よく見ると積もった雪なんかも表現されてるんだけどあまり目立たず特に冬らしさを感じさせる訳でもないので通年飾っている。最後はどこで買ったか忘れたわらぶき屋根の田舎家で荒いつくりながらワイルドなよさがある。ただ屋根や壁に触ると細かな素材がぼろぼろ剥がれ落ちるので仕舞いには影も形もなくなってしまうんじゃないかという気がする。以上どれひとつとっても大変気に入ってるので生徒さんたちの手の届かない本棚の上の方に飾っている。もっとも生徒さんはおろかたまに来る保護者の人たちもまったく関心を示さないので自分ひとりで悦に入ってる形ではある。
 ところでフランス製とドイツ製のミニチュアがあるのでもっと他の国のものも欲しいなとずっと思っててつい何日か前最初に書いたイギリスのリリパット・レーンのことを思い出した。とりあえずアマゾンで検索すると何点か出てきてコレクター用のガイドブックみたいなものもあるようだ。でもどれもこれも思ったよりはるかに高い。母親に買ってきたものは円に対してポンドが今よりずっと高かった当時でも換算すると一万円台だった覚えがあるんだけどそんな価格帯で手に入るようなのはないみたいだ。とにかく精巧さでは今まで見たミニチュアでいちばん優れてると思うのでなんとかしてひとつ手に入れたい。もう少し探してみようと思っている。