指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

昨日の続き。

 白状しようと思う。実は通ってるプールの監視員のバイトをしている。監視員と言うと若干不穏な感じがするかも知れない。でも要するに安全に施設が利用できるように見守る仕事のことだ。誰ひとりプールから逃げ出さないように監視するとかそういう意味ではない。仕事は三つのパートを十五分ごとにローテーションして回している。三つのパートとはタワーとパトとコントと呼ばれる。タワーとはアルミのパイプで組まれた監視台のことで数段のステップの上にイスがしつらえられている。これを目にされたことのある方は結構多いんじゃないかと思う。それに上って高い位置からプールを見守る。パトとはパトロールの略でプールサイドをあちこち歩きつつやはりプールを見守る。客がルール違反をしたときに駆けつけて注意するのも主にパトの仕事だ。もちろん事故を見つけたら即座にプールに飛び込んで助ける。まあこれはタワーも同様で見つけ次第タワーを降りて救助に向かう。コントとはコントロールルームの略だったと思う。プールサイドからガラス張りのドア一枚隔てて監視員の詰め所が設けられている。そこからプールを監視しながら何かあれば駆けつけるというのがコントの仕事だ。特に何もなければ事実上の休憩になる。まあ若い学生バイトなんかは完全に休憩時間と思ってるらしい。でもそうではなくて緊急時のための待機という意味合いがある。プール業界にあってはこのローテーションは割に普遍的みたいで市販のマニュアルを見てもこの通りのことが書いてある。だからプール監視業務のご経験がおありの方ならばすぐに共感していただけるんじゃないかと思う。ところで監視員になると空き時間に割と自由にプールが利用できる。年末に一念発起してプール通いを始めたときは塾が終わってからの時間帯に利用していた。もう施設の終業時間も間近でせいぜい二十分くらいしか泳げない。それでも何もやらないよりははるかにマシだと思ってせっせと通っていた。ところが人手不足のせいで監視員が三人集まらないことがある。たとえばひとり足りないふたり態勢の場合休憩のコントはすっ飛ばされてタワーとパトの繰り返しになり仕事としてはなかなかきつい。そういうときはシフトに入ってない他の監視員のプール利用はできないことになっている。泳いでる時間があるなら仕事を手伝えということだ。それで去年の最後の二営業日は泳ぎに行けなかった。でもできれば毎日泳ぎたい。それでプールの開始時間前に泳ぐことにした。バイト仲間のグレートマザーまーさんが始業前に来て泳いでいることは知っていた。ラインで尋ねると始業の四十分前からなら泳いでいいことになってると教えてくれた。四十分前と言っても前後十分ずつは着替えや準備体操に取られてしまうので実質二十分くらいしか泳ぐ時間はない。でも時間としては夜泳ぐのと変わらない。試しに昨日今日と朝泳いでみた。誰もいないプールで泳ぐのは気持ちいいか?まあ他のスイマーのことをまるで気にしなくていいので気が楽ではある。でも自分的には二十分で六百メートル泳ぐというノルマを課していてそれは結構ぎりぎりなので気持ちいいとか思うほど心に余裕はない。割に必死に泳ぐ。でもまあぜいたくと言えばぜいたくなんだろうな。とりあえずできるだけ続けたいとは思っている。ちなみに今日のスイムは八百メートル。朝の二十分で六百。監視員の仕事の水中点検二回で各百メートル。