指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

恥ずかしい。

 前にもお話ししたので繰り返しになるけど前提としてこのことを踏まえておいていただかないと今日の話の要点がお伝えしづらいと思うのでもう一度ご説明しておきたい。バイト先のプールで監視員は三つの仕事を十五分間隔でローテーションしている。ひとつ目は我々がタワーと呼ぶ仕事で監視台上での監視業務だ。視界の広い高い位置からまんべんなくプール全体を見張る。ただ監視台の上は下と比べるとひどいときには二度くらい温度が高いので暑い時期は結構きつい。タワー上で気分が悪くなり急遽バイト仲間のグレートマザーまーさんに替わってもらったお話はついこの前書いたばかりだ。それでなくても毎年夏になるとひとりくらいは熱中症になって救急搬送されたり何日か入院を余儀なくされたりしている。見た目よりずっと過酷な仕事だ。ふたつ目はパトロールを略してパトと呼ばれるプールサイドの巡回業務。これはプールを見回りながら規則違反や危険な行為があったときに駆けつけて注意するのが主な仕事だ。裏を返せばお客さんがルールを熟知した常連さんばかりのときやお客さんの絶対数が少ないときにはただぶらぶら歩いてるだけとも言える。でも水の事故というのはいつ起こるかわからないのでぶらぶら歩いてるだけでもそれなりに気は抜けない。最後がコントと呼ばれるコントロールルームでの仕事。基本はプールに面した見通しの利く監視室でプールを眺めてればいい。監視室はたいていエアコンががんがんにかかってる。それくらいじゃないとタワーとパトの合わせて三十分をプールサイドで過ごした体をクールダウンすることができないからだ。だから何もなければコントがいちばん楽だ。もちろんひとたびことが起これば社員への報告からAEDの用意から場合によっては救急車の手配までこなさなければならないとても重要なポジションなんだけどこの施設ではここ数十年でそういうことは一度しか起きなかったらしい。その一度は今春定年で辞められたバイト最年長だったデタさんがおぼれた人を救い適切な処置を行って事なきを得たということだ。デタさんは実はその筋では結構有名な方でもある。
 この前夕方からバイトに入ったときそれまで勤務してたふたりが同時に勤務を終え苦手な女の子の「んぶちゃん」と僕が同時に勤務に就くというタイミングがあった。入らなくてはならない業務はタワーかコント。ある意味天国と地獄だ。「んぶちゃん」が「どっちから行きます?」と尋ねるので「じゃあタワーから行くよ」と答えると「絶対コントって言うと思ってました」と言われた。もうつき合いも結構長いけど君は本当に人のことがわかってないな。オレが選択肢を突きつけられて楽な方を選んだことが一度でもあったか?オレはな。楽な方の選択肢を選ぶことを恥ずかしいと思うタイプの人間なんだよ。いくら苦手な君相手でも君に楽な方を譲ることが礼儀にかなってると思うんだよ。まあ自分のことしか考えてない君にわかってくれとは言わないけどな。と思いましたとさ。こう見えて担当はのっけから酔っ払いでした。ここまで書いて来て気づいたのは僕は苦手な人にも結構興味を持ってるなということでした。「んぶちゃん」も苦手苦手と言いながら割によく観察してますね。きっと何が苦手なのかはっきりさせたいんでしょう。そんなことはっきりさせてどうするつもりなんですかね。我ながらよくわかりませんが今日もいつもの量を飲み終えたので寝ます。