いたずらにこのブログの登場人物を増やすのは本意ではない。もともと読みづらいブログをさらにわかりづらくするようなものだからだ。でも今日あったエピソードをご紹介するにはどうしてもあとふたり登場人物を増やす必要がある。ひとりはマノ君と名づけよう。三十五歳の男性で自営業を営んでる。バイトに入ってきたのは割に最近のことだ。やる気があってまじめだけど間違ったことは許せない性分のようでそういう場面があるとはっきり相手に指摘するところがある。たいていのことには目をつぶる僕とは随分違ってる。まあ彼から見ればこちらは事なかれ主義ということになるかも知れない。逆にこちらから見れば彼は対人関係でトラブルにならなきゃいいなと若干はらはらさせられる存在だ。まあでも僕の仕事ぶりにとても信頼を寄せてくれてて何かにつけて判断を仰ぎに来たり何曜日のどの時間帯なら僕がシフトに入ってるか聞き出して一緒のシフトに入ろうとしたりする。そういう意味では慕われてると言っていいかも知れない。もうひとりの呼び名は別部署君にしとく。その名の通り施設の別部署からプール監視にヘルプで入ってくれる男子学生だ。僕はこの人の働き方があまり好きではない。何事につけても楽な方へ楽な方へと流れるきらいがあるからだ。そりゃ僕だって楽なら楽な方がいいとは思ってる。でもそれがどんなものであれ仕事である以上は責任がつきまとうしそれを回避するつもりはさらさらない。前にも書いたように楽なことときついことがあったら必ずきつい方を選んで仕事をしてる。もちろんそれは勝手な倫理観だから誰にも押しつけることはできない。でも現実的に言って楽な方を選んでられるのは学生のうちだけだ。社会に出たら絶対に痛い目見るぞと思いながら見てる。ところで今日僕は午前中いっぱい受付業務に入ってたのでプールサイドのことはまったくわからなかった。監視員は途中までマノ君と別部署君ともうひとりの男子学生さんだった。マノ君も別部署君も一人前と言うにはほど遠いけど三人目はキャリアも長いし仕事ぶりも信頼できるので彼さえいればまずまず安心と考えてた。ところがその三人目が途中で帰ってしまうとほとんど監視経験のない別部署君二号が監視に入った。こいつも相当なやつでパトロールでプールサイドを巡回するべき時間帯に監視室で休んでたらしい。少しするとマノ君が彼に今はパトロールの時間だから休んでないでプールサイドに出て下さいと言ってるのが監視室から聞こえた。その後しばらくしてなにやら騒がしいのでどうしたのかと思ってたらマノ君がやって来て説明してくれた。プールの一部を使ってスイミングのレッスンを行うために途中でコースロープを移動しなければならないことがある。コースロープ移動には両端にひとりずつの計二名が必要だ。監視は通常三人態勢で監視台に上ってるひとりはずっと監視を続けなければならないので残りのふたりで移動に当たることになる。移動時間になってマノ君がコースロープの一方の端で待ってるのにもう一方を受け持つべき別部署君がやって来ない。コースロープの移動を忘れてお手洗いに行ってたそうでマノ君は時間になっても移動ができないことでお客さんからクレームを受けたんだそうだ。もちろんこの件でマノ君にはなんの落ち度もない。監視員にあるまじきヘマをやらかした別部署君が百パー悪い。お客さんにも外部から来てるインストラクターさんにも迷惑をかけてしまうのでコースロープ移動にだけは誰もが神経をとがらせてる。マノ君は腹に据えかねたみたいですぐに社員に抗議したそうだ。そしたらあのふたりはどうしようもないからあなたが細かく指図してあげて下さいって言うんですよ。いちばん下っ端の僕にですよ。と呆れて半笑いになりながらマノ君は言う。でもさあマノ君。もしもいやな目に遭いたくないんだったら社員の言う通りにした方がいい。コースロープ移動があるときは毎回事前に他の人と段取りを確認してるよ僕だって。それはベテランのグレートマザーまーさんが相手のときも変わらない。いちばん重要なのはプールの運営を滞らせないことだからさ。と思いながら口には出さない。たぶんそう言っても今のマノ君の耳には届かないだろうから。ある種の物事は自分の経験の積み重ねからしか学び取れないものだ。しかし六十にして耳順うとはうまく言ったもんだな。さすがは孔子様。自分も六十過ぎて初めてそのほんとの意味がちょっとだけわかりかけてきたよ。