- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/06/28
- メディア: 文庫
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お話はミステリーということになると思う。錨のような重い一点を作品の底に打ち込み、それを作品の中で展開される一番重要な倫理としている。その上にグラフィティーアートとかDNAの二重らせん構造とか連続放火事件とかいった豊富な道具立てを配して巧みに語られて行く。ストーリーテリングには破綻が無くおもしろい。浜村龍造みたいなのもいるし。
ただ文体はおそらく村上春樹さんの影響を受けていて、と言うか、もしかしたら意図的に模倣した上で一部分を拡張したいモチーフがあるように思われ、その部分が感心もさせまたがっかりもさせた。感心させたのはこういう形でなら村上さんのもう少し先まで行けるのか、と思わせるところが確かにあるせいだ。がっかりさせたのはそれにもかかわらず最終的に村上さんの抑制された文体がひどく懐かしく思われたせいだ。ちょっと調子に乗りすぎで何かがだだ漏れしている印象が否めずそれが読後感を薄めることになった。