指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

そしてギャツビー。

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー) スコット・フィッツジェラルド村上春樹訳 「グレート・ギャツビー
個人的ザ・スコット・フィッツジェラルド・ウィークス最大のイベントとも言うべき「グレート・ギャツビー」。 と言っても村上さんの訳が刊行された翌年2007年に一度読んでいる。そのときにはすごくおもしろくてのめり込むように読んだ、みたいな感想を書いているがもう少しまともな感想を述べるのを避けているように思われる。実際数年前に読んだばかりなのにあらすじと強く印象に残ったシーンを除くと、まるで読んだ憶えの無いところもたくさんあった。そういうところを意識して丹念に読んで行くと、フィッツジェラルドの作品の美しさとは、少なくとも僕にとってはということだけど感傷の美しさということになるように思われた。
感傷的な内容であることは作品にとってよいことでない場合が多い気がする。作者が自分に酔っていたら作品は成り立たない。でも「グレート・ギャツビー」は文章を積み重ね積み重ねして最後にすごく美しい感傷を描くことがテーマであるように思われる。もちろんそのためには感傷に溺れてしまわない文体が必要だ。感傷的でありながら感傷に負けてしまわない文体を使って感傷の美しさを描くこと。そういう風に言い表すと「ラスト・タイクーン」はさておいても、「夜はやさし」にもそれは共通するような気がする。
同じことを何度も繰り返し書いていて申し訳ないんだけど、村上さんの短編「中国行きのスロウ・ボート」の中公文庫版に収められたバージョンがとても好きだ。そのラストの感傷は「グレート・ギャツビー」の感傷ととても似通っているように思われた。