指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

いつも通り、子供はぐっすり眠っている。

夕方言い方に随分気をつけながら子供に話をしたのだが、初めはにこにこ聞いていた子供の顔がパパは一週間帰って来ないというくだりでくしゃっと一変した。たまたまベッドで遊んでいるときに話したのだがベッドに顔を押しつけたきり僕が何と言おうと家人が何と言おうと静かな息づかいで泣いている。しばらくして起きあがったと思ったら今度は家人の胸に顔を押しつけて泣き続ける。声を上げるでもしゃくり上げるでもない。とても静かな泣き方でだからちゃんと伝わったんだなと思った。
どれくらいの時間が経ったか子供は起きあがって家人におみやげのフランクフルトソーセージが楽しみだみたいなことを言いながら無理にはしゃいだ。でも僕の方を見ようとはせず恐る恐る見やった先に僕の視線を捉えるとまた相好を崩して泣き始める。その気持ちが手に取るように伝わって来てあまりにかわいそうで僕も泣いた。
僕はここをある意味での極点にしようと思う。ここに透明な杭を打って透明な旗を立ててこの場所のことをどんなことがあっても決して忘れないようにしようと思う。これから先何があろうと、たとえば重大な心の障害が子供を見舞おうともこの極点がある限り僕は子供のことをどこまでも信じ抜けると思う。僕らはしかるべき時まで、しかるべき別れの時までは本当に分かちがたくつながっているのだ。
その後夕方の散歩に出て帰って来てから夕食をとり、風呂に入り今子供はいつも通りぐっすり眠っている。ところがその父親は何か書いて気を落ち着かせなければ眠れそうもない。子供より親が大事。