指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

おじさんになりたくないだけ。

自分の趣味に合う服装や本や考え方などを総合すると、とにかく自分は子供でいたいんだと思わされる。「海辺のカフカ」で15歳を取り上げた意味を語る村上春樹さんじゃないけど、もっとちっちゃな自分が自分の中にいつもいるような気がする。と言って別に深い意味がある訳でもない。それは要するに好みの問題なので、現実的に年相応の責任を取ることが難しいとかそういう影響があるほどのことでもない(と、信じたい)。それほど立派にとは言えないかも知れないけど、重大な差し障りが無い程度には子供だって育てている。
いつまでも子供でいたい。でもそういう告白は大変恥ずかしいので面と向かっては家人くらいにしかできない。それであるとき機会があったのでそういうことを言ってみたら、即座にこう言われた。あなたは子供でいたいんじゃなくておじさんになりたくないだけよ。うーん、そうかも知れないと思った。確かに僕はおじさん的なものが結構嫌いだ。変な幾何学模様のネクタイが嫌いだし白いワイシャツが嫌いだ。うろこっぽいベルトや金属のタッセルがついた靴が嫌いだし、黒くて透けるナイロンの靴下も嫌いだ。文体のゆるい歴史小説推理小説や特にビジネス書が嫌いだ。ゴルフも麻雀もパチンコも嫌いだ。酒は、好きだ。
でも結局は僕も否応なくおじさんの世界に引きずり込まれて行く。少しずつではあるけど日々あちこちが書き換えられて行きしばらく経つと結構な量が書き換えられてしまったことがわかる。
asxさん*1の「メトロガール」で最近相次いで取り上げられたのは、トマス・ピンチョンの「競売ナンバー49の叫び」とスティーブ・エリクソンの「黒い時計の旅」だった。うまく言えないけど若々しい読書史(そんな言葉はないけど。)という気がする。僕も二十代の半ば過ぎにそれらを読んだ。わからないところも多かったけどとりあえずある種の評判をとった作品は片っ端から読んで行く若いエネルギーがあった。そういう自分の姿を振り返って眺めているようで、共感しつつ好感を持った。ここでこの二冊を読み返す気力があったら僕もまだまだ相当に若いことになる気がする。どうなることやら。ちなみに僕が持っているのはそれぞれ下記。

競売ナンバー49の叫び (サンリオ文庫)

競売ナンバー49の叫び (サンリオ文庫)

黒い時計の旅

黒い時計の旅

こうした本に触れるだけで何となく心が躍る。福武書店の海外翻訳とサンリオ文庫。以前にも触れたけど惜しむにあまりある。

*1:id:asxさん