- 作者: 河合隼雄,岡田知子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/11
- メディア: 単行本
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主人公のハァちゃんが泣き虫なのは実はそれらしいエピソードの結果であることが本編に触れられているが、それより本質的なのはそれが豊かな感受性を暗喩していることだ。感受性が豊かなことが本人にとって幸福なことかどうかはわからない。喜びや楽しみが割り増しされる分、苦しみや悲しみも割り増しされてしまうからだ。ただ生きることの有りようを広いレンジで感受できる心の、その性能の良さが、読者に深く印象づけられる仕組みにはなっている。そういう心が見たやわらかくあたたかな世界の魅力が伝わって来ることにはなっている。
苦しみや悲しみも割り増しされる世界がなぜやわらかくあたたかな世界と印象されるか。おそらく底に生命力という概念が横たわっているからだと思われる。主人公の生命力が主人公を絶えず前に進ませ障害物(それは主人公にしか気づくことのできない微細な障害物だ。)を乗り越えさせる。最後には必ずやわらかくあたたかい地面に着地することがそこでは可能となっている。
しかもそこにいかにも河合さんらしい何かを融解させ緩ませるニュアンスが加わっている。そのニュアンスはハァちゃんの心の世界のものでなく、物語を語る河合さんの心の世界のものだ。つまり主人公と作者の心のあり方が二重化されることによってこの物語の魅力が形づくられていると言える。
ところで感受性が豊かだということは頭がよいということとすごく密接な関係にあるのではないか。これまで何度も頭の中で転がしたその考えが、またぞろよみがえって来るのを感じた。