指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

有栖川宮記念公園。

広尾なんて無縁だから忘れていた。でも公園の入り口を横目に見たとき来たことがあるのを思い出した。昔「あなた」と来たのだった。名前の割には特に何ということもない公園だった憶えがある。
当時僕は「あなた」に怒られてばかりいた。「あなた」が理想をしっかりと持ってそこから見た僕の至らないところに腹を立てていたのか、それとも「あなた」が形にならないもやもやをいつも抱えていて、僕は単にそのはけ口に過ぎなかったのか、今となってはわからない。いずれにせよ、今の僕が当時の僕にアドバイスすることができたなら、その人のことは早めに諦めた方がいいよ、と言うだろう。お前が彼女に寄せる思いの半分くらいは、お前自身の自己愛なんだよ、それは間違ったことじゃないだろうか、と言うだろう。当時の僕はいろいろなことを必要以上に複雑に考えていた気がする。だから、物事はもっとシンプルにも考えられる場合があるんだよ、と言ってやるのだ。
「あなた」のことはもう忘れた。でも有栖川宮記念公園みたいなことはこれからも起こるかも知れない。僕はそれをできる限り風化させていく。それが一番現実的なやり方だからだ。僕が今住んでいるこの辺にも「あなた」との思い出はあった。でもそれらは家人や子供の生のリアリティーにとっくの昔に書き換えられてしまった。