指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

松屋の牛めし。

プールに通いたいと家人が言い出したのは、子供が幼稚園の頃からつきあいのある、ややぽっちゃり目のお母さんが最近すっきりやせて来たことが直接の理由と思われた。彼女はスポーツ施設のジムに通い始め、その効果が出だしたところらしかった。彼女にとっても家人にとってもダイエットは永遠のテーマで片方がそれに成功することはもう片方にかなりのプレッシャーを与えるものらしい。
僕は結婚前に水泳にはまっていたことがある。週五日、毎日二キロずつ泳いでいた。それくらい泳ぐとまず何を飲み食いしても太らない。泳ぐ前から比べると体重は一割(80キロ近かったのが70キロジャスト)減ってそれ以上増えも減りもしなかった。
もう随分前に聞いたその話を最近になって思い出し、家人は俄然水泳に興味を持ったらしい。水着など一式を揃えて水泳を教えて欲しいと言い出した。それで子供が児童館に行く土曜の午後連れだってプールに行った。泳ぐのは何しろ二十年ぶりということだったので、だるま浮きから蹴伸びからばた足までを指導した。時間が無くてクロールまでは行かなかったけど、運動不足もいいところのひっきー系専業主婦にはかなりな運動量だったらしい。
それで夕飯はテイクアウトの松屋牛めしにした。子供と僕が夕方の散歩がてら買いに行った。子供は牛めしの大盛りを平らげる。僕は並に生野菜をつける。家人はカレーと生野菜。偉大な一歩を踏み出した専業主婦に対する心ばかりの助力だ。調理も必要なければ後片づけも要らない。
ちなみに僕は松屋が大好きで、上京したての頃は他に店を知らなかったこともあって荻窪駅北口近くの松屋で三食凌いでいた時期があった。千切りキャベツにかけるフレンチ風のドレッシングがとてもおいしかった。ブランクがあって何年もその味と疎遠になっていたけど最近時々食べるようになってその頃とドレッシングの味がまるで同じで驚いた。
という訳で大好物だけどそれなりに家人に気をつかった夕食を三人で食べていると、当の家人が腕がだるいと言う。ばた足までしか練習してないので腕は全然使ってないんだけど、まっすぐ腕を伸ばすとかビート板を持つとかいう動作がすでに専業主婦の普段使ってない筋肉を召喚したのかも知れない。だからマッサージしてやる。そしてどうしてここまでサービスしなければいけないんだろうと思う。いや別にいやだって訳じゃないんですけど。