指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

おみやげの話。

両親とも今から思うとそこそこ社交的なタイプだったが、近所のお母さん連中以外の客が家に来るということは滅多に無かったように記憶している。それでもごくたまにやって来る客からあるとき、まだ小学生の頃だったんじゃないかと思うけど、おみやげをいただいた。両親に向けてのおみやげとは別に、わざわざ子供の分まで用意して下さった訳だ。何をいただいたかは全然憶えていない。おもちゃとか文房具とか図書券とか、そんなものだったんじゃないかと思うけど我ながらこの推測もあまりあてにならない。お年玉とかもらった記憶とごっちゃになっているかも知れない。でもとにかくそれが大変うれしかったようで、滅多に来ない客から自分宛のおみやげをもらえることはすごくうれしい、という小さな物語が胸に刻まれた。どこかのよく知らない誰かが、自分のことをきちんと心に留めておいてくれている、というところが肝腎だった。でもそれ以降子供のためにと言っておみやげを持って来る客はいなかった。ずっと期待していたけどそういうことはもう無かった。小さな物語は小さく裏切られ続けた。
僕は社交性というものにまったく欠けているので、誰かの家を訪ねるということはほぼ皆無なんだけど、それでも何年かに一度義姉夫婦の家には行く。義姉夫婦と言っても、家人は僕よりだいぶ年下なのでふたりとも僕より若い。男の子がふたりいる。うちの子にとって唯一のいとこたちだ。彼らと会うときは必ず彼らのためのおみやげを用意する。最後に会ったときには、ふたりともマジレンジャーにはまっていると聞いていたので、それに出てくる乗り物のおもちゃを上の子に、ソフビを下の子に買って行った。選んだソフビが実は悪役だったというオチが付いたけど、家人の言う限りでは喜んでもらえたみたいだった。
今日から家人と子供が帰省するので、昨日は休みをとって子供を児童館に預け、帰省に必要なこまごましたものとか親類へのおみやげとかを家人と買いに行った。別の用(それについては日を改めて書きたいと思います。)があって池袋のビックカメラのおもちゃ売場へ行くと、レジの向こうにプラスティック製の折り畳みができるケースがいくつも積まれ、「ベイブレード」と殴り書きされた紙がそれぞれに貼ってあった。ベイブレードは品薄だと聞いていたので、取り寄せを依頼した客の分がそこに収めてあるように思われた。在庫があれば甥っ子たちへの恰好のおみやげになるが、今日の今日で入手は難しいだろうと思ったらそれは思い違いで、レジの前に張り出された写真入りの商品リストで欲しいものを選び、その番号をレジで言ってくだんのケースから出してもらい購入するようになっていた。どれを買えばいいのかわからないまま、甥っ子たちへのおみやげが見つかった喜びとすぐにでも売り切れにならないかという焦りで商品リストの前で固まっていると、スターターキットみたいな、とりあえず一式揃っていてすぐにふたりで遊べるセットが見つかった。家人にそれを告げると、それならうちの子の分と三つ、こっちのハンドルも買ってあげるといいよと言うので急いでレジに並んだらあっさり全部買えた。スターターキットは、大きい方のつづらみたいなすごくでかいパッケージだった。
先ほど家人と子供は無事実家に着き、早速ベイブレードで遊ぶ三人の姿がケータイに送られて来た。子供はいつもうちで一人でベイブレードで遊んでいる。対戦できる相手がいるのはとてもうれしいだろう。そう考えると僕が甥っ子たちへのおみやげをベイブレードに決めたのは、もしかしたら主に自分の子供のためだったということになるのかも知れない。でも明らかにそれとは別のところで子供たちは自分のためのおみやげをもらうべきなんだと固く思っている。子供たちは時に、大人と同等の扱いを受けることが必要なのだ。
ということで一週間後に出張を兼ねて家人の帰省先へ行くまではひとりで暮らすことになる。誰にも迷惑をかけないし、明日も誰とも会う予定は無いので、今夜はすりおろしにんにくのたっぷり入ったラーメンを食べようと思っている。