指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

これがその話か。

暗渠の宿 (新潮文庫) 西村賢太著 「暗渠の宿」
風俗の女に入れあげた挙げ句金をだまし取られるいきさつはこれまで読んだ作品にも何度か軽く触れられていたが、それを詳細に語る一編と、もう一遍の表題作は「滝野川のひと」もの。前者はなるほどこれがその話か、これを書かない訳には行かないよな、という気がするほど本当に情けなくしかも身につまされる話になっている。僕ももてる方ではなくてこういうことを書くのも恥ずかしいけど今までにつき合った数は西村さんより少ない。初めてつき合った人と別れたときにはもう金輪際女の人に相手にしてもらえないんじゃないかと思った。それは胸が冷たくなるほどの恐怖だった。だから駄目そうな兆候のすべてに目をつぶって相手を信じようとする語り手の気持ちは痛いほどよくわかる。
滝野川のひとはやっぱりとてもいい人のように思われた。この人に裏切られるいきさつはすでに読んでいるけどそれは裏切られてもちょっと文句を言う筋合いじゃないような気がする。それまでに語り手の方でさんざん裏切っているからだ。ただし彼女と同棲中は風俗通いをぴたりとやめるというのは殊勝だと思う。
個人的には変に潔癖なところがあって風俗というのには行ったことがない。あでも、キャバクラって風俗ですか?それなら友だちに連れられて何度か行った。でも必ずその友だちと一緒だったのでキャバクラが好きなのは僕ではなくて友だちだったというのははっきり証明できると思う。後年その友だちは外国人のホステスに入れあげ、彼女の帰国後月々送金していた末に音信不通となったそうだ。それは西村さんの書く話と同じようなニュアンスに思われるけど、不思議なことにその友だちには一切共感しない。