指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

蝋石を買いに。

最近では道路に落書きする子供とかあまり見かけないし見かけたとしてもそれは決して良いことではないと思うんだけど僕なんかが小さかった頃は道路に落書きする子供というのが結構いた。僕が生まれ育ったのはいなかだったし交通量だって今よりずっと少なかったからそういうことが許されていたんだと思う。落書きまで行かなくても石蹴り遊びとかするのに蝋石で円を描いたことがある。チョークなんかと比べると遙かに重く冷たくてアスファルトやコンクリートの上をなぞると白い軌跡が残る。その重さや冷たさと地面をなぞるときの独特の感触が好きだった。また線はチョークで描いたよりも長持ちした憶えがある。滅多に手に入らなかったけどたぶんそのせいもあって蝋石と聞くと今でもなんとなく好ましい感じがする。
子供を連れてよく行く駄菓子屋に蝋石があるのを憶えていたのもそんなささやかな偏愛のせいだったけど、その店をたまたま今日通りがかったときビニールに二本包まれたそれを買ったのは、子供の国語の教科書に蝋石が出て来る話が載っているのを知ったからだ。きょうび蝋石なんて見たこともない生徒たちもたくさんいるかも知れない。学校で先生に渡せばこれが蝋石だと生徒たちに紹介してくれるかも知れない。もちろんとても差し出がましいのは重々承知なんだけどなんとなくそういうことをしてみたかった。それは蝋石への偏愛からばかりでなく子供への思いからだ。