指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

スパゲティー本。

([も]3-1)恋文の技術 (ポプラ文庫) 森見登見彦著 「恋愛の技術」
村上春樹さんの古いエッセイでスパゲティー本とはスパゲティーをゆでている間も手放せないほどおもしろい本、というようなことが書いてあったと思うんだけどこの「恋文の技術」は正に僕にとってそういう本だった。もっとも結婚してから一度もスパゲティーなんてゆでたことないけどそれはまあおいといて。その前に読んだ「充たされざる者」がおもしろいけど陰鬱で重かったので、楽しく読める小説が読みたかった。ちょうどいいときに文庫版が出たのに気づいたので一も二もなく買って来た。
森見さんはとてもサービス精神が旺盛でかつ読者が何を望んでいるかをわきまえていらっしゃるように思われる。書簡体の小説なのでたとえば手紙に直接書かれなかった何かを複数の手紙の間から浮かび上がらせるような手法もあると思う。そうなると行ったり来たりをかなり繰り返さないと真相がわからなくなる。でもすらすら読んできちんと落差を持ったことの真相にたどり着くことができる。読者に優しい。
それと文体なんだけど北杜夫さんのエッセイに似ていると初期の頃思っていたけどだんだんそれが感じられなくなって来た気がする。それよりもこれは正に森見さんのオリジナルだという印象が強くなった。何ヶ所かで爆笑しつつおもしろくて一気に読んだ。