指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

ラクーアの一蘭。

開店休業 吉本隆明著 【追想・画】ハルノ宵子 「開店休業」
dancyu」に連載された吉本さんの食にまつわるエッセイに、長女の漫画家ハルノ宵子さんが文章とイラストをつけたもの。ハルノさんの作品は申し訳ないが読んだことがないが、家人は割と好きで最近新しい作品が出版されないのを密かに残念に思っているとのことだ。ハルノさんは吉本家に戻られ家事を担当した時間が大変長かったんじゃないかと推察される。ハルノさんのことで、決して意地悪な言い方ではないが、料理などからちょっと手が抜かれたりするのは自分の新しい作品に取り組み始めたからじゃないかと吉本さんが言われているのをどこか読んだ憶えがある。昨年の3月お父様を亡くされた後10月にはお母様も亡くされた。お気の毒なことだと思う。
でもとても魅力的な本になったような気がする。吉本さんの回想もこれまであまり読んだことがないものが多く、さらにお父様を寄り添うように眺めていたハルノさんの述懐や分析が加えられることで、おふたりの息づかいがすごく近くで感じられる。長い間、遠くからその作品に接して来た者には、そうした「近さ」は何より貴重なもののように感じられる。
もうひとつ、別の近さをこの本の中に見つけた。

つい先ごろ、娘たちに誘われて、孫と婿殿と私の男三人は、後楽園遊園地へと出かけた。その日の昼食は、敷地内にある中華そば屋さんへ案内され、ご馳走になった。
なるほど、これは珍しい。客の席は一人ずつ区切られていて、しかも、カウンターのように細長い席が食台になっている。
皮肉を言えば、狭い空間に客をいっぱいに詰め込む工夫がなされているということになるが、見ず知らずの人と隣り合わせで中華そばを食べるときの気遣いや、わずらわしさがないということは、意外といい。勝手な空想に浸れる空間でもある。
(後略)

ラクーア一蘭のことが取り上げられていると思う。子供と僕が繰り返し食べに行った店で、それが無くなってしまったことを数日前に嘆いたばかりだ。