指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

よい作品の条件。

15歳の寺子屋 ひとり 吉本隆明著 「15歳の寺子屋 ひとり」
15歳の子供たちの質問にいろいろな人が答えて行く「15歳の寺子屋」シリーズのうちの一冊で、吉本さんが選んだ(かどうかはわからないけど)テーマは「ひとり」。ここ何年かの吉本さんの本を読んでいるとかつて吉本さんが親鸞について書いたことがそのまま吉本さん自身に当てはまっているように感じられることがある。

(前略)最後の親鸞にとって、最後の親鸞は必然そのものだが、他者にとっては、遠い道程を歩いてきた者が、大団円に近づいたとき吐き出した唇の動きのように微かな思想かもしれない。(後略)―「最後の親鸞

現在の吉本さんにとって現在の吉本さんの考えは必然的な道筋を辿って来たものに違いない。でもまわりの人にとって現在の吉本さんの言葉は、かすかなもの(と言うか、個人的にはすっきりし過ぎているもの、とでも言った方が近い。)にしか感じられないかも知れない。そういうことになると思う。つまり最近の吉本さんの言葉は長い間辿って来られた必然的な道筋の長々しさをすっ飛ばして、一気に結論のみが語られているように見えるということが言いたい訳だ。それは字面は確かにわかり易いかも知れないけど、たくさんのものが折り畳まれ詰め込まれているように思える。
ひとりであることについて、才能について、恋愛について、今までにも読んだことのあるエピソードに紛れて、初めて目にする知見にも触れられて驚かされた。特によい文学作品の条件が、すごくシンプルに定義されているところは、長い間読み続けて来た者にもとても新鮮だった。