指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

この感じ。

ペンギン村に陽は落ちて
文庫版は二度くらい読んでると思うんだけどこの前ブックオフで単行本の初版の安いのを見つけたので購入。前にも書いた通り処女作の「さようならギャングたち」以来高橋さんの書く独特の哀しみの感じがとても好きだ。村上春樹さんの小説に強烈に引きつけられたのが喪失感のせいだと最近になってようやく気づいたんだけどそれに似てるかも知れない。タイトルから鳥山明さんの「Dr.スランプ」を下敷きにしたものであることはすぐにわかると思う。他にも「サザエさん」や「ガラスの仮面」や「キン肉マン」、「北斗の拳」、「ドラえもん」が取り上げられている。はっきり言って素材としては古い(とは言えこの小説の出版から四半世紀が経とうとしているのに六作品中半分までが現役というのは驚くべきことかも知れない)。でも小説としては全然古びてない。どのストーリーも意表を突くし不思議だし読んでておもしろい。そしてときに哀しい。文体にも手触りみたいな独特の存在感がある。

(前略)
夕方、息子はへとへとになって戻ってきました。わたしはキッチンでスパゲティをゆでているところでした。
「そろそろわたしの息子が腹をすかせて帰ってくる頃だと思ったのだ」わたしはスパゲティの固さをたしかめながらそう言いました。
(後略)

なんでもないんだけどなんかこうすごく変で、同時にこれはこれでいいような気もする。だってスパゲティなんてゆであがったらすぐに食べないと伸びちゃうでしょ。そんな料理をいつ帰って来るか正確にはわからない息子のためにつくっておくって普通変だと思う。それでありながらスパゲティの固さを確かめるこだわりがこの人にはある。この変な感じが高橋さんの作品に特有な感じだと思う。説明するのが難しいんだけど。