指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

ちょっとやり過ぎなほど、すばらしいファンタジー。

フォーマットは集英社新書、タイトルもこうであれば高橋さんの小説以外の仕事、たとえば「ぼくらの民主主義なんだぜ」的な趣旨の本に思えるし実際そういうものだとまるで疑わずに購入した。でもこれは小説としか言いようのない作品だ。主人公のランちゃんは小説家の「おとうさん」と元ヤンの「おかあさん」の間に生まれた男の子でキイちゃんという弟がいる。と聞けば、「おかあさん」が元ヤンだったことを別にすれば(本当にそうなのかも知れないけど)、主人公のモデルは高橋さんの最新のご家族のご長男で、「おとうさん」のモデルは高橋さん自身という構図が透けて見える。そして兄弟が通っている学校も、以前高橋さんが本の中で触れていて僕の記憶が確かならばその後実際にお子さんたちを入学させることになったと聞く「きのくに子どもの村学園」をモデルにしていると考えてよさそうだ。そうするともう登場人物が素晴らしすぎる。おとなたちの誰ひとりとして子供たちを傷つけようとなんてしない。どこまでも柔らかく受け止めてから、どこか高みを目指して子供たちの心を優しく投げ上げるかのようだ。ルールはあるけど否定はない。途中までこんな理想的な大人たちが本当にいるのかと疑問に思った。僕も随分子育てはがんばったと思うけどそれでも後悔してることとかあれは失敗だったかもと思うようなことが結構ある。でもこの本の大人たちはおそらくそんな後悔や失敗など一度も経験したことがないかのように描かれている。いい気なもんじゃないかという気がしたのだ。でも途中から考えが変わった。このちょっとやり過ぎなほど素晴らしい環境をつくってそこに子供たちを囲い込み、作者はひとつの実験をしたかったんじゃないかと思われたからだ。もうひとつ、本当に心痛む現実の児童虐待やそれを行う親たちの姿に対して、この美しすぎる環境を設定することはそれだけでひとつの希望なんじゃないかとも思われた。ただ子供たちをのびのび育てるためだけの世界があったっていい。そういう気がした。
見事な伏線が張られていて最後はびっくりする。でもこれ事実じゃないですよねえ?