指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

違和感と夢。

穴 (新潮文庫)

穴 (新潮文庫)

夫の転勤のため自分は仕事を辞めて夫の親が家主である夫の家の隣に建つ一軒家に引っ越す。それだけで様々に気を遣わねばならない事態に突入したと言える。表面的にはやさしいとは言え姑との接触面が大きくなるのはストレスに違いない。慣れない土地での振る舞い方も不明だ。頼みの夫は多忙で、そばにいるときはたいていいつもケータイを片手に誰かとメールのやりとりをしている。仕事を辞めてしまったので時間をどう使えばいいのかわからない。そんな複数の違和感がいちどきにやって来れば心の状態が異常になって行くことは容易に想像がつく。睡眠が浅くなり夢の中で違和感が形となって現れる状態を思い浮かべると、このお話のリアリティーに随分近づくことになるんじゃないかと思う。
併録の二作は語り手が男性だが不吉な感じのする作品でどちらもおもしろかった。「ゆきの宿」のラストは、夫婦の間に随分長く性交がなされていなかったと考えるととても恐ろしいものになると思う。そういう解釈でいいんだろうか。