指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

忘れられない物語のために。

 昨日の続き。糸井重里さんの名作RPG「MOTHER」ドラクエに対するある種のアンチ・テーゼとしてつくられたという話をどこかで耳にしたことがある。時代はRPGによくある中世ではなく現代もしくは近未来。使われるのは魔法ではなく超能力のようなもの。ラスボスを倒すのは武力ではなく○○○(さすがにこのネタバレは伏せます。)。でもそうした目につきやすい相違点とは別にもっと本質的な違いがあることが昨日考えたことをもとにすると見えて来る気がする。それは「ゲームの物語」の強さということだ。たとえば30年以上経っても忘れられないのがゲームも終盤になって現れるイヴというロボット。とても強力なロボットで彼女がパーティーに加わるとどんな敵も簡単に倒せるのでレベル上げにはうってつけだ。でも彼女以上に強い敵キャラが現れる。その力の差は歴然でパーティーのメンバーは誰ひとりかすり傷ひとつ負わせることができない。またさすがのイヴも歯が立たない。しかしイヴは敵からの圧倒的な攻撃を一身に背負いパーティーの他のメンバーを守ってくれる。そして敵の一撃ごとに確実に傷つき破壊されて行く。この絶望的な展開の結末がどうなるかはやはり書くのを控えておく。
 いろいろなゲームをやって来たけどこのシーンほど泣かされたことはない。このゲームのコピー「エンディングまで、泣くんじゃない。」はなるほどここのことを言ってるんだなと深く納得した。(それについては随分前にもう少し遠回しな言い方で触れたことがある。)そして糸井さんはここでもドラクエとの差異化を意図的に図っている気がする。それが「ゲームの物語」を強化するという方法だ。ただ単にパーティーを先に進ませるための障害物を設定するのではなくそこに強い物語性を付加することに成功している。だからこそイヴの物語はプレイヤーの(あるいは少なくとも僕の)心にしっかりと焼き付けられたんじゃないかと思う。繰り返しになるけどそれはドラクエという物語が持つ弱さに対する強烈なアンチ・テーゼとなり得ている。もっとも家人なら弱いのはドラクエの物語じゃなくあなたの頭の方じゃないのと言うかも知れない。そしてそう言われたらとりあえず言い返す言葉はない。