指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

別れ。

 昨日はバイトの最年長の人の最後のシフトだった。たまたま一緒のシフトに入ってたので最後のお別れの言葉を言うことができた。朝のうち春期講習のためにバイトを入れてなかったら結果的にひとりも生徒さんが来ない日になったので家人とふたりで最寄りの西友まで出かけた。帰りにお花屋さんに寄って小さな花束を買った。ほんとは誰かが音頭をとって有志を募りお金を集めてきちんとした花束を渡すくらいのことをすべきなんじゃないかと思うんだけど誰もそんなこと思いつかないみたいだった。でもその人の勇退に花束ひとつないのはとても寂しい。だから心ばかりのお花を贈りたいと思った訳だ。そしたらもう随分長いことバイトに来てない別のスタッフがわざわざ挨拶にやって来た。そのスタッフはもともと医学部を目指してたんだけど合格できなくてでも医療現場で働きたくてそういう関係の専門学校に通ってるということだった。卒業して就職が決まったのでこの人も昨日を限りに辞めることになっていた。すごく現実的な考え方をする人で現実的であるとは想像力が豊かということだと個人的には思ってるので何度か一緒のシフトに入るうちに自然に好感が湧いた。最年長の勇退にわざわざ駆けつけるなんてきっと心ある人でもあるんだろう。最後に思いがけずその人にも会ってお別れを言うことができすごくうれしかった。昨夜は以上のふたりとこのブログでも何度か触れたひろたんとかごくんにもうひとりの学生さんの合わせて五人が挨拶の言葉を残してグループラインを退会した。最後のひとりは昨日僕と入れ替わりにバイトを終えたので一瞬だけ顔を合わせることができた。肩をたたいてお疲れ様でしたお元気でと言うとがんばりますと答えが返って来た。あなたがいなくなってしまうことを惜しむ人がここにひとりいるんだということが伝わったとしたら僕としてはとてもうれしい。
 春は別れの季節だ。でも別れがこれほど身に沁みる春というのも個人的には珍しい。今のバイト先はいい人の割合が世間一般よりちょっとだけ高いような気がする。僕はその何人かに好感を持っている。彼らの多くは学生でいずれは卒業していなくなってしまう。だからこの職場にいる限り毎年春は別れの季節であり続けるだろう。彼らにとっては通過点に過ぎないその場所に僕はいつまで残ることになるんだろう。