指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

飲み過ぎ。

 昨夜は寝酒の量を間違えてほんの少しだけいつもより飲み過ぎたら夜中にベッドから落ちて軽くひじをすりむいた。午前中のバイトのときも調子が上がらなくて―と言っても気持ちが悪いとか胃がむかつくとかそういうのとはむしろ逆でなんかこう酔いが残っててふわふわと気持ちよくてぼーっとしてるうちにいくつかミスをした。でもまあたまにはそういう日もあるよね。いつでも完璧に仕事をこなすって訳にも行かない。人間だもの。夜もシフト入れといたんだけど人手が足りてるのか仕事が回って来なかったので夕方二時間半ほど授業をやっただけで帰宅。セブンイレブンの冷凍オクラを解凍してもらったのをアテに缶酎ハイを500mL飲んでから夕食。すごく眠いのでずっとぼーっとしている。Eテレの「ゲームゲノム」という番組の「バイオハザード」を取り上げた回を見てたらなかなか楽しかった。本田翼さんバイオやったことないのかな。その後家人とふたりでバイオシリーズのどの場面が恐かったかを話し合ったらすごい盛り上がった。僕がいちばん恐かったのは「3」でコの字型の変な廊下を帰ろうとして走ってたら壁をぶち破ってタイラントが現れたシーン。一応壁は壊さないというお約束だと思ってたのにそれを堂々と文字通りぶち破ってのご登場でいやあれは度肝を抜かれたやマジで。あんまり取り乱してその場でやられた記憶がある。家人は「1」のあれなんだっけラボラトリーだっけ床の裂け目から植物の葉先が飛び出してて通りかかる度にびしって殴られて少しずつヒットポイントを奪われるのがあったじゃないですか。あれが恐かったと言う。同じゲームでも恐い体験には結構違いがあるもんだね。ただしハンターの初登場シーンはかなりびびったということで意見が一致。その他のゲームで印象深かったシーンはと話が広がり家人は「ドラクエ5」を挙げる。前にも書いた通りこの人はゲームのストーリーを本当に丹念に読み込んでてそれはつまりどんな物語でも何一つないがしろにせず丁寧にその行方を追っているということで僕はそれに敬意を表して彼女を「物語の豚」と呼んでいる。蔑称じゃありません。称号です。これも前に書いた通り元々は中上健次さんが谷崎潤一郎を指して述べた言葉だから。それほど貪欲に物語を吸収する力ってそんじょそこらの人にはなかなか持てるもんじゃないと思う。しかも彼女はプロの書き手として日夜新しい物語と格闘している。もひとつ付け加えると谷崎は家人のお気に入りの作家のひとりでもある。この称号に誠に誠にふさわしい。でしょ。
 でも僕がすべてのゲームでいちばん印象深いと思ってるのは毎度おなじみ「MOTHER」のイブだ。何しろ泣いた。「MOTHER」には自己犠牲の権化みたいなキャラクターが登場する。たとえばバードマン。ほら「MOTHER」って心揺さぶられるのは自己犠牲じゃん。イブの前にもバードマンとかいたじゃん。と言うと家人もバードマンはきつかったなと答える。この辺問わす語らずでわかってもらえるとコミュニケーションというのは実にスムーズに進む。これからご結婚をお考えの方ささやかなご参考にしていただけると光栄です。だって夫婦仲が悪いって生きて行くエネルギーを大幅に削ぐことでしょ。逆に夫婦仲がよければかなりの逆境でも割に幸せに乗り切ることができる。ほんとだよ。自分の稼いだお金を他人のためには一切遣いたくないというこの前亡くなった芥川賞作家の西村賢太さんみたいな方もいらっしゃる。でも僕が今割に苦労して本業とバイトをかけ持ちして働いてるのは家人と子供のために決まってる。それはもうはっきりしている。それは自己犠牲じゃなくてただただ当たり前のことなんだと思う。だってほら彼らにまともな暮らしをさせることが僕自身の幸せなんだから。

追記:バードマンではなくフライングマンでした。でも家人にはバードマンで通じた。どちらにしても切ない存在だ。