指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

山田太一さんが亡くなった。

 山田太一さんが亡くなった。個人的な体験で言うと「岸辺のアルバム」のときはちょっとおさなすぎ「ふぞろいの林檎たち」の再放送くらいで年齢的にはぴったり合ってた実感がある。制作年とかはウィキを見れば簡単に確認できるんだろうけどそれは禁じ手として記憶だけで書いて行きたい。それで言うと「岸辺のアルバム」の主題歌ってジャニス・イアンの「Will You Dance?」だった記憶があるんだけどほんとにそうなのかな。ドラマの内容はまったく知らないんだけど。「ふぞろいの林檎たち」は今から考えても力のあるドラマだった。時任三郎さんと中井貴一さんと柳沢慎吾さんという配役もよくて特に柳沢慎吾さんは本当にはまり役だったと思う。ただこちらも内容はあまりよく覚えてない。ものすごく切実な痛みを描いた作品だった印象だけが残っている。あとやっぱりサザンはいいよね。というくらいの特に熱心なファンとも言えない立場でありながら亡くなったことを知って何か一作拝読しておきたいと思った。それで映画を観た記憶がかすかにある「異人たちとの夏」に白羽の矢を立てた。映画を観たと言っても映画館に観に行ったのではなくテレビで放映されてたのを観るともなしに観たんだろう。結末も覚えてなかった。読み始めてすぐに文体に対する違和感がやって来た。どこがどうという訳じゃないんだけどこれは小説を書くのが専門の人が書く文体じゃないなという気がした。でも違和感は違和感として強引に読んでしまおうと思えば読めるしひとたび慣れてしまえばすごく読みづらいということもなかった。途中からはこういう形で広げた風呂敷をいったいどうたたむつもりなんだろうという興味に惹かれて一気に読んだ。そして読後に残るイメージは割と強かった。それは主人公にとってのある意味での理想郷であり読者にとってはそれをありありと追体験した感触が残る。解説の中で田辺聖子さんは小説には何を盛り込んでも構わないし自由に書いていいのだという意味のことをおっしゃっている。もちろんこの作品のことだ。それは異人の姿を正面から描ききったということ以上にこの作品の文体について言われた言葉なんじゃないかと思われた。繰り返しになるけどこの作品の文体は普通の小説とはどこかが違う。
 ご冥福をお祈り申し上げます。