指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

昨日のこと。

 バイト中この前11ぴきのねこのTシャツを褒めてくれたシマオさんが久々に別の部署の仕事に入っていた。そこを通りかかるときには相手が誰であれお疲れ様ですとひと声かけることになってるのでそうするとにっこり笑ってお疲れ様ですと返してくれる。続けてなんかすごいお久しぶりですねと言うとお久しぶりですと返してくれてから髪お似合いですねと言う。きょとんとしてると髪切られたんですよねと言うのでそう言えば最後に会ったときはもっと長かったのかなと思いついてはいありがとうございますとほほえみかけて通り過ぎる。こういうときは六十歳のじーさんが瞬時に十歳くらいの男の子に戻ってしまう。はにかみ屋のまだ幼い男の子だ。(こういうの大島弓子さんだったらとても上手に絵に描いてくれそうな気がする。「たそがれは逢魔の時間」みたいに。)照れちゃってまったく二の句が継げない。そして後でものすごく悔やむことになる。なんか気の利いた台詞のひとつでも言えたらよかったのにと。シマオさんはいつもお綺麗ですねはセクハラまがいかも知れないけど(いや実際すごい綺麗な女の子なんだけど)いつも感じいいですねくらいのことがなんで言えなかったんだろう。それにしても果てしない感じのよさだ。バイト先の近くに某大学があってそこの女子学生が何人か別部署にバイトに来ている。みんな割に感じがよくて感心している。でもその中でもずば抜けた感じのよさだ。観察力もある。久々に会ったバイト仲間に髪切ったんですねお似合いですなんて誰が言える?少なくとも僕には言えないしそんなことが言える人を彼女以外に知らない。四十歳若かったら結構真剣に交際を考えたかも知れない。今はただそういう人の記憶の中に自分が留めてもらえた幸せに浸るだけだ。そして彼女にまた会える日を楽しみに待とう。