指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

過去問解きまくり。その二。

 個人的に中学受験には賛成できないので(小学生のうちから偏差値を云々しなきゃならないなんて明らかに間違ってる。)私立中学の受験対策は基本的にお断りしている。ただ今年はおひとりだけどうしても対策してくれと言って聞かない保護者の方がいらしたため仕方なく引き受けた。(以後尊敬語やめます。)なんでもこれまでいくつかの学習塾に通ったのに成績を上げてもらえたのはうちの塾だけだとのことでえらく信用されている。その学校の過去問集を生徒さんが持って来るんだけど予め問題を解いておかないと解説できないので三千円近くするその過去問集も自腹で買った。それで例によって時間のあるときに解いている。もう受験まで日がないので国語やその他の問題はうちで解くからいい。算数だけ指導して欲しいと言うので解くのは算数だけだ。ところがこれが超むずかしい。五十分の試験時間じゃとてもじゃないけど最後までたどり着けない。それどころかどう解いていいか見当もつかない問題さえある。高校入試の過去問の方がずっとやさしい。そういうのも私立中学受験に賛成できない由縁だ。小学生の頃から変化球対策ばかりしてたら柄(がら)の大きい立派なバッターにはなれない。わからないので解説を読もうとするとこう書いてある。「編集上の都合により○○入試第△回の解説は省略させていただきました。」おいおいおいおい!過去問集出すなら解説つけるのが筋だろうが。これじゃあ小学生が独習するなんて無理だ。哀れな塾講師に自力で解説させるのも無理だ。とも言ってられないのでできるだけの努力はしている。もうひとつ難点があってそれは中学の知識がないと解けそうにない問題が結構あることだ。中一で出てくる一次方程式は毎回必ず登場するし(しかも中一より難しい。)今日解いたのには連立方程式や円周角の性質を使うものがあった。前者は中二後者は中三で習う。素因数分解も頻出。特に最小公倍数を求めたり分数を通分したりするのに数字があまり大きい場合は素因数分解を知っておいた方が断然楽だ。もしかしたらそういう中学生の知識に頼らずとも解ける方法があるのかも知れない。でもそんなの知らないし今後知ろうとも思わない。だから最低限素因数分解と一次方程式はできるよう指導している。ところが問題は他にもある。
 模試の結果を見せるので相談に乗って欲しいとその生徒さんのお母さんが言ってきた。この人は前にも相談しに来たことがあってなんて言うかちょっと恐い。なんとしても子供を志望校に入れようと必死ですでに常識的な判断ができなくなってるみたいに見受けられる。それで模試の結果を見ると第一志望の中学の合格判定は見事にE。つまり五段階評価の一番下で普通に考えれば受験したってとても受からない。なのに前から比べると随分できるようになってきたと言う。そりゃそういう見方もあるかも知れないけど受験まで一ヶ月を切った段階で合格判定がEなら残念ながら諦めるというのがまともな判断じゃないかと思う。でも相談というのは入試までの限られた時間で何をすればいいかということで合格の可能性については不問に付されていたのでこちらも相談された件についてだけ意見を言う。もちろん内心では受かる訳ないよそんなのと思っている。大体その中学は難関でもなんでもない。家に近い私立だからというだけで選んだみたいでそんなのに行くくらいなら公立で充分じゃないかと個人的には思う。そういう中学に対して合格判定がEなんだからその生徒さんがどの程度の学力なのかは推して知るべしだ。およそ中学受験などに向くタイプとは思えない。なのに母親の見ている強固な幻のせいで受験に挑まされている。素因数分解とか一次方程式とか教えたってできるようになる訳がない気もする。それでも過去問は解かせなければならないので解説するために問題は予め解き続けている。徒労という言葉が思い浮かぶけどそれでも算数の問題を解くこと自体はそれほど嫌いではない。そういうとこ変わってるよねと家人は言う。