指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

「さよならアイルトン・セナ」と彼女は言った。

 ひざが痛くて今日もスイムはお休み。家人のリクエストで池袋のジュンク堂の並びにあるカフェ・ヴェローチェで朝食。チーズとツナのホットサンドと家人はアイスの僕はホットの紅茶。チーズがおいしかった。紅茶も身に沁みておいしい。以前はティーバッグの紅茶は一切受け付けなかったけど技術が上がったのかこちらが衰えたのか今はとてもおいしく感じられる。セットでひとり四百八十円。食べ終えると午前十時を過ぎていたのでヤマダ電機にアップルウォッチを見に行く。プールでスマートウォッチを使うお客さんがちらほら見受けられる。どんな機能があるのか皆目わからない。ただ便利なのなら使ってみたい。ウェブでちょっと調べたところ運動のデータをとるならグーグルピクセルウォッチよりアップルウォッチの方が適してるとあった(嘘だったらすいません。)のでちょっと説明とか聞いてみようかなと思った次第だ。(このあたりで今日のタイトルの意味の察しがつかれた方は間違いなく本ブログのザ・ロング・アンド・ワインディング・ユーザーです。ロングだけじゃなくたぶんワインディングです。)それでヤマダ電機にはアップルの小綺麗で結構大きなブースが一階にあるのでそこへ入って行き販売員さんとは違う制服を着たアップル専門みたいなお店の人に話を聞いた。するとアップルウォッチにはプールスイミングというモードが用意されていて心拍数どころか泳いだ距離までカウントしてくれるとのこと。気軽に説明を聞きに行っただけなのにこれでぐらりと心が傾く。しかも一番下の価格帯(四万円弱)のものでもそのモードがサポートされてるということで傾きがますます角度を増して行く。すぐに買うのはどうかと思って検討しますと伝えてから二階に他のスマートウォッチを見に行く。でもスイムに特化したモードを持つものが見つからずここに至って傾きは限界を超えどしんと音たてて地面に倒れた。倒れた先にはアップルウォッチが指し示されている。冬期講習の講習代がまるっと手つかずに残ってて金額としてはそれで買える。家人に相談するとそんなに買いたいものがあって買うお金があるなら買ったらということでじゃあすいませんけど買いますということで買った。僕としては後に退けない環境をつくりたかったということもある。主に水泳のためにアップルウォッチを買った以上水泳やめる訳に行きませんよねということです。これで泳ぐのにまた一興が添えられることになると思う。
 何度も書いてるように愛用の腕時計はタグ・ホイヤーのものでもう三十年近く前に買った。故障したときはスイスまで修理に出したりして今に至っている。そこまでして愛用してるのはアイルトン・セナ自身も使ってたモデルだからだ。亡くなったあと出版された写真集でセナが同じモデルを身につけてるのを見つけたときは死ぬほどうれしかった。アップルウォッチを購入したので僕がそのタグ・ホイヤーの腕時計をつけなくなるんだろうと家人は考えたのかも知れない。あるいは古いおなじみのおもちゃと新しいおもちゃのどちらをより大切にするのというからかい半分の気持ちがあるのかも知れない。それで「さよならアイルトン・セナと彼女は言った」んだけど悪いけどセナとさよならする気はない。役割を分けてこれからもセナの小さな形見を使い続けて行く。