指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

泳ぐのがちょっと楽しくなる。

 初めてアップルウォッチをつけて泳いでみた。モードを選択して開始ボタンをタップすると三秒間の秒読みの後百分の一秒まで計れるデジタル時計がスタートする。泳ぐと泳いだ距離と消費カロリーそれに二十五メートルを何回折り返したかが表示される。ということは自分の泳いだ距離を自分で数えなくていいということでこれは野良スイマーの方ならおわかりいただけると思うけどかなりの手間を軽減してくれる機能だ。まわりのスイマーが口を揃えて言うことのひとつにに泳いでるうちに自分が何メートル泳いだかがわからなくなってしまうというのがある。あれ?これで三百メートルだっけ三百五十メートルだっけというのは僕にも割にしょっちゅうある。スピードが安定してる熟練スイマーならプールサイドの時計を見るだけで何分経ったから何メートル泳いでるはずとか推測がつくのかも知れない。でも駆け出しの野良スイマーにはそういった目安もなくて根がまじめなせいか迷ったときは少ない方の値をとるようにしてるので自分的にはこれで千メートルなんだけどあと五十泳いどこうとかあと百泳いどこうとかとにかく誤差まで含めて確実に千メートルに達したことにしたくてがんばらなければならない。時間があるときはいいとして時間が限られてるときはこれが結構つらい。でもアップルウォッチはそうした「距離を数える」というくびきからスイマーを解放してくれる。これは大げさに言うと神を味方につけたということと同じな気がする。人知の及ばないことをすべて知ってるのが神だとすれば自分が泳いだ距離を自分で数えなくとも知っててくれるアップルウォッチはある意味で限定的な神ということになる。これはすごくありがたい。もうひとつアップルウォッチの効用を言えばひとりで泳いでるのになんか見守られてるように感じられることだ。あるいは伴走者が付き添ってくれてるみたいな。もちろん泳ぐというのはひとりきりの孤独な営みなんだけどそれを見守ってくれる誰かがいるかのように錯覚することができる。これは心理的に意外と大きい気がする。端的に言ってなんだか心強い。自分はひとりじゃないと思うことができる。何度も言うけどそれは錯覚なんだけど錯覚だろうとなんだろうと泳ぎ続けることに力を貸してくれるなら大歓迎だ。ということで今までふにゃふにゃ泳いでいたものに輪郭を与えてくれたと言うか秩序を与えてくれたと言うかそういうものとしてアップルウォッチの役割はとても大きいと感じた初日。これで四万円なら安いもんだ。ただし以前からのユーザーに尋ねると意外に壊れやすいということで壊れると修理代って馬鹿高いので壊さないように長く使って行きたいと思っている貧乏な野良スイマー。今日のスイムはアップルウォッチによるとちょうど千メートル。