指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

半分だけ泳ぐ。

 春期講習の始まりが早い日だけど始まる前に泳いで塾が終わった後にも泳いで合計千メートルにしようと企んだことは昨日書いた通りだ。朝食も早めに出してもらって理想的な時間にプールに入ったとしても泳げる時間は二十分しかない。二十分あれば六百泳げるはずなので泳ぎ始めると泳ぐのが本当につらくて17分42秒で五百泳ぐのがやっと。それ以上泳ごうという気力がなくて打ち切りにした。ただそのときには残りの五百を夜泳ぐ気でいた。春期講習が終わった後は毎日ほぼ同じ。雨じゃなかったので遠回りして安いお弁当を買いに行き昨日と同じスーパーで買い物。帰宅後シャワーを浴びて飲んで食べる。そこで子供が実はと切り出して大学院に行こうと思うと言う。初めて聞いたよ。初めて言ったんだろうけど。とりあえず修士課程だけを考えるとすると二年間で学費が百五十万円かかるけどそれは貸与型の奨学金でまかなう。そして就職してから返済すると言う。ただ僕の持つ情報は古いのかも知れないけど修士課程を修了しただけではあまり大したことなかったんじゃないかな。もう三年かけて博士課程を修了しないと大学とか院とかで職を得ることはできないんじゃなかったかと思う。でもまあ今はそうじゃないかも知れないし子供なりにこうしたいという方向性ははっきりしてるようでもある。もちろん反対する理由もその気もない。ただ一浪した後も受験に落ちまくってもう放送大学でいいとまで言ってた子が随分変わったもんだとは思う。子供が出かけてから僕は浮かない顔をしてたのかがっかりしてるのと家人が声をかける。正直なところを言うと卒業まであと一年と思ってがんばってきたのにまだ肩の荷を下ろしきれないのかと思うと若干うんざりする。そういう意味のことを答えると僕がそこまで背負う必要はないんじゃないかというのが家人の意見だった。本人も随分しっかりしてるし全部任せてしまっていいんじゃないかと。ただ僕としては毎月家人に渡してる生活費がたとえば月三万でも二万でも減ってくれたら随分楽になる。子供の食費を負担しなくてよくなればそれは可能だと思う。また家賃とか光熱費とかはしかたないとしてもスマホ代とかは就職したら当然自分で払うようになるだろうと思って期待していた。でも来年以降も職に就かないならそれもどうなるかわからなくなった。僕たち夫婦はそろそろ老後のために本気で貯蓄しなければならないところに差しかかっている。太宰治の「桜桃」じゃないけど「子供より親が大事」になりつつある。ここ半月バイトを休んでたらものすごい気が楽でこのままやめちゃう訳には行かないものかなあとか夢想したりもしている。まあ年金を全額貯蓄に回そうとすればそれは明らかに無理なんだけど夢想だけはしている。そうなったらどんなに楽だろうと。でもまだ向こう十年くらいはバイトしなきゃいけないのかなあ。とか考えると気持ちが暗くなる。
 昼寝の後塾へ向かう。今日は二度目の体験授業の女の子が来る日でおばあちゃんが送って来た。授業ご覧になりますかと尋ねると観たいとのことだったのでいちばん後ろの席に座ってもらう。でもしばらくぶりなので忘れてたんだけど保護者が観てる授業がいちばんきついんだよね。気を抜く暇というのがまったくない。それでへとへとになって夜泳ぐのはやめようかなあと思う。という訳で今日のスイムはいつもの半分だけ。