指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

iPod Shuffle。

岡崎京子さんの、「Pink」だったかもしかしたら他の作品だったかも知れないけど、みんなユーミンとサザンしか聴いてないし、という意味の台詞があった。若い人たちの画一的な趣味を揶揄する文脈だったと思う。なぜそんなことを憶えているかと言うと、正に自分が当時ユーミンとサザンしか聴いていなくて、読みながら少なからず胸に痛みを覚えたからだ。

それからどれくらいの時間が経ったかわからないけど、ユーミンとサザンしか聴かない世代、は、すでにどこかへ行ってしまったような気がする。あるいはユーミンとサザンというのはひとつの象徴に過ぎなくて、岡崎さんがそれを上手に台詞にして見せたとき、ああこれは僕らのことを言っているんだ、という錯覚が生まれただけなのかも知れない。考えてみれば、ユーミンとサザンだけでやって行ける訳がない。彼らの信者として世を捨てて出家するのでもなければ。

それでも、ユーミンとサザン、という言い方にはある時代のある雰囲気が込められている気がする。そこにはひとりひとりの顔ははっきりしないながらも、量だけはたっぷりのオーディエンスがいる。ただ、彼らに共有されていた一体感は、今ではばらばらにほどかれて、その多くはお父さんお母さんの家族を思う気持ちに昇華されてしまった。・・・まあ我田引水だけど、そんな風な考えも少しは成り立つかも知れない。昔のユーミンやサザンのCDを、買い直して聴いているお父さんやお母さん。

そんなわけで僕のiPodには、今のところ古いサザンしか入っていない。さすがに少し飽きてきたので、来週は古いユーミンを聴こうと思う。