指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

TVドラマ「太宰治物語」。

文庫で適当に読み散らしていた太宰治の作品をまとめて読んだのはどれくらい前のことか思い出せない。確かちくま文庫版の全集の刊行が終わったすぐ後で、何日かに一冊ずつ買い求めては結局全部読んだ。それだけ時間があるのだから学生のときだったんじゃないかと思う。その後も割と近くにいたという人による評伝や、吉本隆明さんの講演録や、猪瀬直樹さんの「ピカレスク」なども読んだので、自分なりには大切にしている作家ということになる気がする。
それで結構楽しみにして昨夜放映されたTVドラマも見た。制作者側に立って言うとまあこれで精一杯だよなという感じだった。一視聴者の立場、しかも太宰結構好きですという立場からするとなんだこれ、という感じになった。
まず取り上げている時間の幅が広すぎてドラマ本編と言うよりあらすじみたいな感じがした。その場その場で起きる事件や太宰自身の心境や太宰を取り巻く人たちの思いなどが、触れるだけ触れられて掘り下げられることなく終わった気がする。制作者側に立てばこれで精一杯なんだろうけど、一視聴者としては非常に物足りない感じがする理由の第一がそのことになると思う。
それから宣伝文句ではなんか明るい太宰像みたいなことが言われていた割には、結局のところ暗い人物としかとりようがない風になってしまっていたのも興ざめだった。論文でも批評でもないのだから、多少のフィクションを交えても新しい解釈を打ち出す気概が欲しい気がした。こうとれば太宰だって決して暗くはないじゃないかという根拠がたとえひとつでも含まれていたら、そしてその根拠に全編が貫かれていたなら、ドラマとしての存在意義も格段に増しただろう。
ただ一点だけ、三鷹にある太宰の家が割と開けたところに建っている設定はよかったと思う。作品を読む限りでは家もそれほど大きくなく庭も狭くてなんかせせこましいところに建っているように思われていたからだ。事実がどうであれ、太宰がああいう場所に住んでいたとすることで救いのようなものが感じられた。