指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

長距離ドライバーの孤独(嘘)。

会社にはときどき大量の荷物が届く。まあそれが会社の商品なわけだ。以前はいっぺんに3トンくらい届くこともあった。今でも多いときには1トン半くらいがトラックで届き、パレットに積まれてフォークで下ろすことができればありがたいけどそういうことは非常にまれなので何人かの人力で下ろすことになる。
そうした荷物は大体午前中か遅くとも3時頃までに届くのが普通なんだけど先日午後の6時になって届いたことがあった。予定ではお昼頃に着くはずだったのが大幅に遅れたのだ。重さは600キロあまり。まあ量としてはそれほど多いほうではない。それを会社からクルマで2〜3分のところにある専用の倉庫に下ろす。もうすぐトラックが着くという連絡を受けて5時半頃から何人かが専用の倉庫の方へ行って待っていた。
問題は降りてきたドライバーが開口一番言ったことにあった。今会社の方にも言ってきたんですけどね、と彼は言った。荷物を下ろす住所が会社の方になってるんですよ、別の場所に下ろしたいなら事前にそう言ってほしいんですよね、手続きがあるんで。一言一句再現できてるとは思わないけど、趣旨と感じの悪さはまあこんな風だった。そこにいた社員の中では僕が一番血の気が少ない方なので、そりゃすいませんでした、とか答えて収めたんだけど一瞬かなり険悪な雰囲気になった。以後天気のことや道路状況のことなどをつべこべ並べる彼の言葉は完全に無視されることになった。
昼に着くはずの荷物が6時間遅れたのだ。道が混んでるとか彼自身に責任のない事情があったにせよ彼はまずそのことを謝らねばならない。下ろす場所が当初伝えていたところと違ったのは確かにこちらに非があるかも知れない。でもどちらについて先に言及すべきかと言えばまずは前者だ。後者を選ぶのは間違っている。人は他人との間にしかるべき距離を置かなければならない。他人を不快にするほどいきなり距離を縮めるべきではないのだ。
おそらく彼は自分の弱みにつけこまれないよう先手を打って自分の方でキレて見せたのだろう。もしかしたらその手でこれまでも何度も自らの窮地を救ってきたのかも知れない。つかもうそれに決まってる。そんなのは掌を指すように明白なことだ。でもそれは僕には間違っているとしか思えない。
こういう人とは関わり合いにならないようこれまで結構努力してきたのだけど、今でも時々無遠慮に向こう側からやって来て吉村萬壱さんの小説に出てくる宇宙人みたいに何もかもをぐちゃぐちゃにする。今もってそれをうまく押しとどめる手を思いつくことができない。